21話「夕食はいつも美味しい」
ディコラールからこれから先のことを言われて、私は思考のループに入り込んでしまった。
取り敢えず、悪い話でなくて良かった、とは思う。
それは純粋な気持ちだ。
嫌われたり追い出されたりといったようなことは避けられて良かった。
ただ、あんな風に未来に関する重要なことを話されると、さすがにすっきりしてはいられない。
……いや、もちろん、悪い意味ではないのだけれど。
良いことも、悪いことも、その度合いが大きければ多少は心に負担を与えるものだ。
「こんばんは!」
「あ、ディコラールさん。こんばんは」
夕食をとるため食事のための部屋へ向かったところ、扉のところでディコラールとばったり遭遇した。
「入りましょうか」
「そうですね」
個人的には何となく気まずかったのだけれど、彼は日頃と変わらない接し方をしてくれた。
「食事楽しみです」
着席してから少し待機している間に気まずさは段々溶けていった。
「マリーさんはいつもそう言ってくださっていますね」
「はい、ここの食べ物は美味しいので」
「そう言っていただけると僕としてはとても嬉しいです。多分、料理人も喜ぶと思います」
「お礼を言わなくてはいけませんね」
「後日伝えておきますよ」
「いいんですか? ありがとうございます。助かります」
落ち着いてくると自然な形で言葉を発せるようになってきた。
そのうちにメイドが現れ、柔らかな声で「お待たせいたしました」と言いながら皿をテーブルへと移し始める。
「こちら、前菜になります」
「美味しそうですね……!」
思わずそんなことを言ってしまって、メイドにふふと笑みをこぼされた。
「ではメニューについて説明させていただきますね。まずはこちらから――」
こうして食事の時間が幕開けたのだった。
「今日もとっても美味しかったです!」
すべての料理を食べ終えた時、気が抜けて、思わずそんなことを言ってしまった。
「マリーさんに気に入っていただけたなら、僕としてはとても嬉しいです」
「いつもそんな風に言ってくださいますね」
「本心、ですから」
「……そう言ってもらえるような女ではないです、私は」
すると彼は「何言ってるんですか」と笑った。
「ちなみに今日の中で一番お好きだったのは?」
「どれも美味しいので難しいですが……敢えて選ぶとしたらグラタンスープですね」
「あれ、確かに、美味しかったですよね」
「はい。香りがとっても良くて、味わいもマイルドながらしっかりしていて、好きでした」
彼と生きることを選んだら、これから先もずっと、こんな風に楽しい会話ができるのだろうか――そう思うと、彼を手放したくはない。
大きな決断をする時、誰もが迷い悩むけれど。
欲しいものがあるなら手を伸ばさなくてはそれが手に入ることは決してない。
躊躇いを抱いているとしても、だ。
欲しいものは欲しいと言わなくてはならないし、この道を選ぶと決めたなら腹をくくって選ぶと決めたと言わなくては。
それができなければすべてにおいて損する一方である。
「ディコラールさんはどの料理が好きでしたか?」
「そうですね、僕は……」
近々答えは出るだろう。その時には最大の勇気を持って言葉を発さなくてはならない。私は多分、本能の領域で、密かに、既に感じ取っている。その時がそう遠くはないことを。




