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義妹に虐められていても婚約者である彼さえ味方でいてくれれば大丈夫、そう思っていたのですが……。  作者: 四季


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20話「本題は」

 勇気を出して、進む。


 談話室の扉をノックする。

 木を叩くような軽い音が鳴った。


 返答は小さかったけれど確かにあって。それは「どうぞー」という無難なものであった。そこから相手の感情を読み取ることはあまりできず、けれども、苛立っていたり怒っていたりということはさすがになさそうで。なので取り敢えず最悪のパターンだけは避けられそうな雰囲気だった。


 緊張しながらも「入りますね」と発し、扉を開ける――すると談話室内にはディコラール一人だけが立っていた。


 彼は柔らかに微笑んでいる。


「あの……何か、お話が?」

「はい」

「そうだったのですね。お待たせしました」

「待っていませんよ」


 ディコラールは悪い人ではない、いきなり人を傷つけるようなことはしないだろう。

 けれど、それでも、今はただいろんな意味で心臓が脈打つ。

 私にとって嬉しいことが待っているのか、あるいは逆のことが待っているのか、それすら分からないから。分からない以上、不安は拭えないのだ。


 だが、そんなもやもやも、近く解消することとなるだろう。


 彼が話をすれば、本題に入りさえすれば、今ここにあるすべてのはてなマークは消えるのだから。


「ここでの暮らしはどうですか?」

「とても楽しいです」


 思っていたより平凡な問いを放たれて、若干拍子抜けしつつも取り敢えず素直に答える。


「なら良かった。……実は少し気になっていたんです。悩みなどが発生していたら申し訳ないな、と」

「悩みなんてないですよ。皆さん優しくて、嫌がらせされることもないですし」

「ですが慣れない環境でしょう?」

「だとしても……ここは天国みたいなもの。とても穏やかでとても幸せ。これ以上の場所なんてない、そう思えるほどです」


 こんなことを言うとお世辞を言っているとでも思われるかもしれない。気を遣って大袈裟に良い風に言っていると思われるかもしれない。


 でも違う。

 そうではないのだ。


 この場所が言葉で表現しきれないほどに快適であるということは紛れもない事実なのだ。


 ディコラールは元から思っていた通り良い人だし、彼の母親も優しい人。そしてメイドたちにもあからさまな悪人はいなかった。


 詳しいことなんて知らない。

 けれど、だとしても。

 皆、余所者である私を受け入れてくれる程度には、善良な人たちである。


「そう言っていただけると嬉しいです」

「本当に……ありがとうございます」


 彼にはどんなに感謝してもし足りない。


「それで、本題に入りたいのですが」


 少し間があって。


「マリーさん、よければこの先もここで暮らしませんか?」


 やがて彼はそう発した。


「え」


 思わず漏れる一文字。


「もちろん、一番大切なのはマリーさんの意思です。ですから無理にとは言いません。ただ、叶うなら、僕はこれからも貴女と一緒にいたい――そう思っています」


 彼はどこまでも真っ直ぐだった。

 普通であれば緊張して目を逸らしてしまいそうなこんな時でさえ、こちらをじっと見つめている。

 だから私も冗談を言ってごまかすといったことはできそうにない。


「これからのこと、未来のこと、考えてみてはくださらないでしょうか」


 向き合うしかない。

 立ち向かうしかない。


「それは……人生を共にする、ということですか? ……いや、まさか。いきなりそんなことあるはず……」

「そうです」

「えっ……では、その……やはり、そういう?」

「恐らくそうかと」

「えええ!! そ、そういうこと!? なんですか!?」


 彼は落ち着いた様子で「はい」と答えた。


「いきなりこんなことを言っては困らせてしまうかもしれないとは思ったのですが……」

「い、いえ! 困るとか! そんなことはありません!」

「では考えてみてくださいますか?」

「は、はい! もちろん! 少し頭を整理して、それから、改めてきちんとお答えしたいです」


 すると彼は「良かった。嬉しいです、ありがとうございます」と言ってくれた。

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