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義妹に虐められていても婚約者である彼さえ味方でいてくれれば大丈夫、そう思っていたのですが……。  作者: 四季


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19話「朝の伝言」

「おはよう、マリーさん。今日は良い天気ね」


 ある朝のことだ。

 起きて少ししてから廊下を歩いていたところディコラールの母親に遭遇した。


「おはようございます」

「まだ少し眠そうね」

「すみません……」

「いいえ、いいのよ、そういうことを言うつもりじゃないの」


 ディコラールの母親は優しい人だ。あの時突然現れた私にも温かく対応してくれた。だから私は彼女に対しては良い印象を抱いている。

 見た目はクール系の大人っぽい感じであって、少々意地悪そうに見えなくもないのだけれど、関わっていれば誰もが理解するはずだ――彼女は思いやりを持った心優しい女性である、と。


「ああ、そういえば、ディコラールから伝言があるのよ」


 そんな彼女はふと何か思い出したかのように口を開く。


「何でしょうか?」

「正午に談話室へ来てほしい、って」


 ディコラールの母親の表情はやや冷たさをはらんだものだ。けれどもそれはいつものことである。ただそういう顔つきの人である、というだけで、彼女が私に対して負の感情を抱いているからのことではない。


 そう分かっているから、安心して向き合える。


「え……と、それが、伝言……ですか?」

「ええ」

「分かりました。ではその時行ってみます。ありがとうございます」


 廊下の壁にかけられた時計へと目をやる。

 正午まではまだ数時間ある。

 今からすぐに談話室へ向かわなくてはならないということはなさそうだ。


 だが、いきなり談話室へ来てほしいと言うなんて、何があったのだろう……?


 何か相談事でもできたのか。

 二人で話したいことがあるのか。


 あるいは、もっと何か別の理由がある……?


 あれこれ考えていると少しばかり不安になってきたのでそれ以上思考を広げることはやめておいた。


 そこで何が待っているのか、なんて、自分一人で考えたところで確かな答えは出やしない。ならば考えるだけ無駄というものだろう。考える時間そのものが無駄だし、それによって憂鬱になることも無駄。それよりも時間を有意義に使う方法なんていくらでもある。人一人が生きられる時間なんて限られているのだから、何も生みださず楽しくもないことに費やす時間なんて呑気に持っている場合ではない。




 正午前はあっという間にやって来た。

 取り敢えず談話室前付近には到着。

 既にかなり緊張してしまっている状態で、胃が重く、口を開けると内臓がぽんと飛び出してしまいそう。


 来てほしい、というだけで、具体的な内容については何も言われていないところが、心の中にある種の乱れというかもやもや感を生み出してくる。


 ――正午まで、あと三分。


 思うことは色々あるけれど、ここまで来たらあとはもう踏み込むしかない。


 怖くても。

 不安でも。

 今さら逃げ出すことなどできるわけもないのだから。


 ――正午まで、あと二分。


 手のひらに汗が。

 全身にほのかな暑さが。


 言葉にしようのない複雑な感情が全身の血管を巡っているかのよう。


 ――正午まで、あと一分。


 も、もう! 逃げられない! 逃れられもしない!


 ……こうなったらもう実際にそこへ飛び込んで何が待っているのかを確かめるしかない。

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