12話「これからも」
「思わぬ展開になりました……」
女性と別れてから、私は第一声そんな言葉を発していた。
「確かにそうですね」
「はい……」
何とも言えない空気が漂う。
ただ、ディコラールは別段不快そうな顔をしているわけではないので、これは多分私が勝手にそういう気分になっているだけだろう。
「きっとこれまでのマリーさんの苦労が報われたのでしょう」
「そんなことは……けど、もしそうだとしたら、少し嬉しく思います」
深く考えているわけではないがそんな風に返すと。
「間違いなくそうですよ!」
彼は悪い意味ではなく圧をかけるような調子で言ってきた。
「そう……でしょうか」
「ええ! そう思います! いや、間違いなくそうですよ!」
ディコラールにそう言ってもらえるとそうなのかなと思えてくる。
彼は真っ直ぐな人だ。だからこそ、その口から発される言葉が心にすっと入ってくる。彼が私に与えてくれる言葉には穢れがない。人柄と似た真っ直ぐさで、聞く者の心に前を向く力を分け与えてくれるのだ。
「だとしたら嬉しいです」
「マリーさんが辛くても真っ当に生きてこられたからこその奇跡です!」
親しくできる家族は一人もおらず。
信じていた人にも裏切られて。
本当に、本当に、いろんな意味で辛かった。
たった一つ。信じられるものがあれば。信じられる人がいれば。それだけで良かったのに。それだけで前を向くことができたのに。それすらもなく。何か一つ、信じられるものが欲しくて、でも手に入れられないままで。
けれども今は信じられる。
目の前の彼を。
こうして真っ直ぐな視線を向けてくれる人を。
彼となら良き友であれるのではないか――身勝手ながらそんなことを思う。
だからこそ私は。
「あの、ディコラールさん」
「何ですか」
「その……これからも、できれば……」
「これからも?」
彼に対して頭を下げた。
「良い友人でいてください……!」
どんな形の出会いだったとしても、そんなものは今さら何の関係もない。
出会えた奇跡。
巡り会えた縁。
それを大切にしたいのだ。
「マリーさん……」
ディコラールは少々戸惑っている様子であった。
「ありがとうございます。僕も仲良くしたいです。どうか、これからもよろしくお願いします」
けれども暫しの間の後にそう返してくれた。
「いろんなところへ出掛けたり、喋ったり、穏やかに過ごしたいですね。マリーさんとであればきっと楽しいだろうなって思いますし」
「ありがとうございます……!」
「お礼は要りませんよ。むしろお礼を述べるべきは僕の方です。唐突な出会いだったにもかかわらずこんな風に温かく接していただけてとても嬉しいです」
数秒の間の後、彼は「僕、今まであまりこういう友人いなかったんですよ」と口を動かした。こちらがほぼ反射的に「そうなんですか?」と発すると、彼は静かに苦笑する。そして「一人っ子だし、親と一緒に住んでいるし、父は体調不良だし、で……家庭環境が一般的じゃないってこともあるかもしれませんけどね」と流れるような調子で話してくれた。
「けど、良い人じゃないですか」
「そう言ってくださるのはマリーさんくらいのものですよ」
「そうでしょうか……」
「皆言いますからね。いい年して親と住んでいるのは気持ち悪い、と」
そういうものだろうか……。
その人たちはきっとディコラールのことを知らないのだ。
彼のことを知らず、知ろうともせず、ただ目に見えるものだけを見て彼という人間を判断しているのだろう。
真っ直ぐな心で関われば彼が問題ある人ではないとすぐに分かるはず。
「そんな言葉、気にする必要ないと思います」
「ありがとう。マリーさんの言葉は力強いですね。勇気をもらえます」




