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1話「父の再婚によって」

 数ヶ月前、父が再婚した。

 それによって義理の母と妹ができることとなった。


 私としては仲良くできればと思っていた。しかしそんな甘いものではなくて。私の思った通りに話が進むことはなかった。


 というのも、義理の母と妹は私に敵対意識を持っていたのだ。


 それゆえ仲良くなることはできず。

 二人は徹底的に私を虐めることを選んだ。


「あんた! ここの拭き掃除、きちんとできていないじゃないの!」

「ごめんなさい」

「今すぐ吹いてちょうだい! できないなら、お母さまに言いつけるわよ」


 義妹ロロルレニアは常に私を下に見ている。そしてことあるごとに大きな声を出してくる。家事や雑用を押し付けてくるだけでなく、あれこれできていないと指摘して私に常に何かさせようとしてくるのだ。彼女にとって一番嫌なことは私に休む暇を与えることのようである。


「ねえ! どうしてまだ拭けないの? もう三秒経ったわよね!? それなのに拭き終えられていないってどういうことよ! ねえ、聞いているの!? ちょっと! 返事しなさいよ!」

「今拭いています」

「うるさい! 口ごたえするな! あんた、あたしに口ごたえして生きてけると思っていたら大間違いよ!」


 大声を出して威圧すれば相手が言いなりになると彼女は思っている。

 でもそんなのは間違いだ。

 そんな原始的な方法でこの世のすべての人を言いなりにできるわけではない。


「拭けました」

「おっそい」

「これで問題ありませんか」

「……ふん、まあいいわ。じゃあ次。買い物リスト渡すから、すぐ行ってきて。ただし十分ね。十分以上かかったらお仕置きだから」


 一つ終わるとまた一つ用事が。

 そんな風にして労働が積み重なる――否、このような理不尽な無賃労働は労働という単語で表現してほしくない――今や私は奴隷である。


 ただ、そんな私にも婚約者はいて、近々彼の下へ嫁ぐ。


 そうなればこんな日々はおしまいだ。


 だから今は耐えよう。


 ただひたすらに、懸命に、耐え続けよう。


 いつか必ず終わりは来る。夜明けが必ず訪れるのと同じように。どんな苦しみも、どんな辛さも、いつの日かはきっと終わるのだ。


 ――そう思っていた、のに。


「え……ガインス……?」


 買い物を終えて帰宅した時、リビングには私の婚約者ガインスの姿があった。


 それだけなら驚くようなことではない。

 しかしそこにあった彼の姿は驚くべきものであった。


 ……ロロルレニアと口づけを交わしていたのだ。


「なっ……マリー!?」


 ガインスは私の姿を見るや否や目を大きく開いた。


「お、おい! ロロルレニア! 嘘をついたのか!? マリーは当分帰ってこないって言っていたじゃないか!」


 こういう展開は想定していなかったようでガインスは大慌て。


「……本当のこと、言えなかったのぉ」


 一方ロロルレニアはというとぶりっこ全開だ。


「何だって!?」

「だってぇ……そのぉ……あたしぃ、いつもお姉さまに虐められているから……」

「はあ!?」

「……お姉さまはぁ、あたしがぁ、本当の妹じゃないから……だから……嫌っているのぉ」


 ロロルレニアは嘘ばかり口にする。


「おい! マリー! 義理とはいえ妹であることに変わりはないのに、その妹を虐めるなんてどうかしている!」

「ガインス、待って、そんなの嘘よ」

「そんなことあるか! こんなに可愛らしい娘さんが、ロロルレニアが、そんな悪女的な嘘をつくわけがないだろうが!」


 ガインスは私のことなんて少しも信じてくれない。


 ああそうか、結局、彼もまたロロルレニアの味方になるのか……。


 これまで共に歩んできた。関係も悪くはなかった。だから彼だけは私に寄り添っていてくれると信じていた。辛い時、寂しい時、一人ではないのだと思えた。


 彼がいるから辛いことも乗り越えてこられたのに。


 それなのにこんなことになるなんて。


「ガインス、信じて。私は彼女を虐めていないわ。そんなことするわけないじゃない」

「ロロルレニアの言葉が真実だと思うよ」

「なぜ?」

「そうだな……ロロルレニアのような可愛く初々しい娘さんが嘘をつくとは思えないから」


 はっきり言われると泣きそうになった。

 でも涙だけは何とか堪える。


「私は嘘をつきそうだと、そう言いたいの?」

「ロロルレニアが嘘をついていないとなればそういうことだろ」

「どうしてそんな……酷い、酷すぎるわ」

「泣けば解決すると思っているのか? マリー、どこまで悪女なんだ」

「まだ泣いてないわ」

「泣きそうになってるだろ」

「そりゃあなるわよ! 嘘を信じる婚約者なんかと対峙したら!」


 すると突如ロロルレニアが「お姉さま! 酷い! どうしてあたしを嘘つきにしようとするの!」と叫んだ。


 それから涙を流す。

 そんな彼女をガインスはそっと抱き締めた。


「大丈夫、俺はロロルレニアだけを信じてるから」


 どうして……? どうしてそんなことになるの。言っていることと行動が違っているじゃない。明らかに。人によって対応を変えるというのはどういうことなのよ。私に対しては泣く前から『泣けば解決すると思っているのか?』なんて言うのに、ロロルレニアが泣けば励ますの……? ロロルレニアが泣けば解決すると思っている可能性に目を向けないのはどうして? 結局、彼女を愛しているというだけなの? 確かに、それならおかしな話ではないけれど。そういうことなの……?

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