5話 キーホルダー(2)
『カニかわいっ!』
冬葉が水槽のカニを見ながら言う
『…イルカとかじゃないんだ』
『えー、イルカも可愛いけどこの子には敵わないよ』
冬葉はそう言うとニッコリと笑ってこちらを見る。
『すごく楽しい…、連れてきてくれてありがとう』
その後のお土産屋さんで見つけたカニのキーホルダーを彼女とおそろいにした。
それだけじゃなく、くじ引きを引いたりしたし、本当に楽しいデートだった。
〜〜〜
俺と冬葉の家は同じ中学だっただけに近い。
さすがに小学校までは違うものの、最寄り駅は同じだった
この辺りにあんまり駅がないせいでそうなってしまっている面もあるかもしれないが…
ここはド田舎とまでは行かないものの田舎寄りだ
街の奥へ行くと住宅街や商業施設からも離れたところに出る。
そこに彼女の家はある。
ここにはあまり来なかった。
彼女が俺の家のほうがいいと言っていたためだ。
そのため、約一年ぶりにここに来ることとなる。
「ふぅ…」
俺は少し息を落ち着かせる。
少し緊張していたみたいだ
ピンポーン
チャイムを押して待つ。
『確認してから開けろ』と注意したのが懐かしい
そのときに冬葉は言っていた。
『ハルくんって直感で分かるから、大丈夫!』
何を根拠に分かっていたのか分からないが、あの時は幸せだった。
ガチャ
しばらくすると、扉が開く
「え、ハ、日川くん…?」
彼女の驚いた声が聞こえた。
「これを拾ってくれたって聞いたから、お礼を言おうと思って」
俺はカニのキーホルダーを見せて言う
「捨てたんじゃなかったの…?」
冬葉が弱い声で聞いてくる。
「…そんなわけないだろ」
責めるような口調じゃなかったのに、少しムッとしてしまった。
(捨てたのは、そっちだろう…)と
ふと気が付く、冬葉の目元が少し赤い気がする。
それだけじゃない、彼女は華奢で可愛らしかったが
今は華奢というよりも風が吹けば折れてしまいそうだ
明らかに異常である。
「なぁ、大丈夫か?」
「え、」
俺は思わず声をかけてしまう。
俺には関係ない話なのに
「なんか、弱々しく見えて…」
何故か放っておけない
もう、恋人でもなんでもないのに
これが惚れた弱みってやつなのだろうか
「…っ、…しないで」
「え?」
聞き取れなかったために聞き返す。
「優しく…しないで!」
彼女は泣きそうな顔でそう言う
そのまま、逃げるように家の中に引っ込んでいった。
そんなに嫌だったんだろうか
俺はしばらく立ち尽くしてから、家へ帰ることにした
「そういえば、お礼言えてないな。」
そうつぶやきながら帰った帰り道
俺の”なにか”はやっぱり冷めたままだった。
〜〜〜
私はドアの前に力なくうずくまる
「どうして…」
私は忘れようとしていたのに、
自然と涙が込み上げてくる。
比奈に詰められて白状したものの、彼が来るなんて思っていなかった。
それに、あんな優しくしてくるとも…
私は知っている。
あの行動に他意がないことを
彼はとても優しいのだ。
それこそ、浮気した元カノを心配してしまうくらいには、彼は優しい。
知っている、知っていても
好きな人にあんなことをされて普通でいられるわけがない。
本当ならすぐにでも抱きついてしまいたかった。
彼の懐で泣きたかった。
でも、私のような欲張りにはそんな資格はない。
私には、この静かな家で胸の痛みを忘れることしかできないんだから。
〜〜〜
次の日の放課後
何やら今日は予定があるからと、健太はそそくさと帰っていった。
やはり3日坊主で終わってしまうのかと思っていると
「ねぇ」
佐々木さんが話しかけてきた。
俺の気づかないうちに入ってきていたらしい。
「彼女と別れたってほんと?」
佐々木さんは何食わぬ顔で聞いてくる
「…誰から聞いたの」
「山田」
佐々木さんは普通に答える
あいつは俺から逃げるために帰ったらしい。
「ほんと?」
佐々木さんが真っ直ぐに見てくる。
「っ…」
どうやら佐々木さんからの質問攻めからは逃げられないようだ
明日、絶対にあいつを懲らしめようと心に決めた。
…今はこの状況をどう切り抜けるかを考えなければ
ここまでお読みくださりありがとうございます
さて、5話ですが思い出のキーホルダーがきっかけとなり2人は急接近しました。
浮気した元カノの心配とか、どれだけ優しいんでしょうね春也は…
さぁ、そんな春也ですがなんと佐々木さんに知られてしまいます。
ここからどういった展開になるのか、ぜひ次回も楽しみにしていてください!
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それではまた次回!




