4話 キーホルダー
朝、突然健太が話しかけてきた。
「なぁ、今日勉強教えてくれよ」
健太は真面目ってわけでもないが不真面目ってわけでもない。
普通の男子生徒だが、勉強を自主的にやりだすようなやつじゃない
「どうしたんだ?」
俺は健太に問いかける。
ろくでもない理由があるんだろうと思ってのことだったのだが、
「い、いや、女子は真面目な男が好きって聞いたから…」
健太が言葉を少しつまらせながら言う。
やはりろくでもない理由だったらしい。
でも、断る理由もないし、友達と勉強するのは楽しい。
俺は健太に勉強を教えることにした。
「放課後、図書室でな。」
「ああ!」
俺が言うと、健太が嬉しそうに言う。
いつもこう無邪気ならきっと女子ウケが良かっただろうに。
でも俺は忘れていた。
図書室には彼女が居たことに
〜〜〜
「ここが図書室か、初めてきたぜ」
健太が少しソワソワしながら言う。
確かにこの学校の生徒で図書室を利用するものは少ない。
図書部とかもなく。
受付に人がいるのは毎週水曜日だけだ。
なぜこんなに図書室が寂れているのか僕にはわからない。
本の品揃えもいいというのに、きっと漫画がないのがいけないんだろうな。
そんな事を考えながら、俺はいつもの席に座る。
その前に健太が座り、二人で勉強を始めた。
途中3回目の質問を健太がしてきた頃
ガララッ
図書室の扉が開く。
(しまった…!)
俺はその音で気がつく。
ここは転校生である佐々木さんの安寧の地だ、
しかし、俺がそこに健太を連れてきてしまった。
言うまでもなく佐々木さんは女子だ、しかも美人
転校して間もないのに何回も告白を受けたと噂で聞いた。
そんな佐々木さんに女子に飢えている健太
もしかしたら、佐々木さんを待ち伏せするようになるかもしれないし
そうでなくても、口の軽いこいつのことだ
うっかり口をすべらせて女子に詰め寄られたら、きっと簡単に漏らしてしまうはずだ。
「日川、こんにちは」
どうしようかと考えているうちに佐々木さんが話しかけてくる。
「さ、佐々木さん、こんにちは…」
俺は焦りながら返事をする。
「なあ、春也…お前佐々木さんと仲良かったのか?」
健太が驚いたように言ってくる。
(お、終わった…)
しかし、俺の考えとは裏腹に佐々木さんは事も無げに答える。
「うん、日川は仲良くしてくれてる。」
それを聞いた健太は俺に小声で言ってくる。
「抜け駆けすんなよ、俺にも紹介しろ」
しかし、俺がなにか言うよりも早く佐々木さんが答えてくれる。
「日川の友達なら信用できる。仲良くしてほしい。」
その後、3人で勉強をした。
健太は佐々木さんの連絡先を手に入れたとかで喜んでいた。
因みに俺は持ってない、断ったからな。
今俺は、空き教室に来ている。
瀧口比奈に呼び出されたからだ。
ガララッ
俺は扉を開けて教室に入る。
瀧口は窓際にある机の端に座っていた。
手になにかを包んでおり、表情は心なしか起こっているように見える。
「どうしたんだ」
俺は瀧口に言う
すると、瀧口は立ち上がり、こちらに歩いてきて
パンッ!
俺の頬を叩いた
「手、出して」
瀧口が短く言う
俺は理由もわからず手を差し出す。
すると瀧口は俺の手の上にカニのキーホルダーを落とす
「これは…」
俺はそれを見てすぐにカバンを確認する
…無い
これは俺の思い出のキーホルダーだ
冬葉との初デートの…
「あの子が持ってきた、朝から元気が無かったから事情を聞いたら
昨日あなたがこれを落としていくのを見たって、
捨てるかどうかは勝手だけどね、そういうのは自分しか居ない空間でやって」
俺がどうしてと聞く間もなく、瀧口が言う
きっとチェーンが外れて落としてしまったのだろう。
なんと間の悪い…
「あの子目が腫れてた、きっと朝から泣いてたんだよ」
瀧口がそう続ける。
「そうか」
俺はそうしか言えなかった。
俺達の間に気まずい沈黙が流れる。
俺が教室を出ていこうと動くと瀧口が言う
「どこに行くの」
「お礼を言いに行かないと」
俺はそう答えて教室から出る
「いきなり叩いてごめん、あの子は家に居いるはずだから」
俺が扉を閉めようとしたときに瀧口が言う
「いいさ」
俺は扉を閉めて冬葉の家へ向かった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
4話はなんと例のキーホルダーを春也が受け取りましたね。
このまま冬葉の家へ行くようです。
物語が一気に動き出したような気がしますね
5話も楽しみにしていてください。
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それではまた次回!