3話 なぜ向こうから。
佐々木さんが転校してきてから早一週間
人は慣れる生き物だ、ドストエフスキーもそう言ったとされている。
しかし、一週間はやはり短いようで
佐々木さんは未だにクラスの注目の的だ。
この一週間毎日図書室を訪れている俺も十分やばいと思うが、
佐々木さんも毎日来ている。
追手を引き連れて。
ガララッ
静かな図書室に扉を開く音が響く
どうやら今日もやってきたらしい。
俺が彼女に視線を向けると、彼女はいつものようにハンドサインをする。
そのまま、スタスタと奥に消えていく。
ガララッ
またも、扉の開く音が聞こえる。
今度は追手のようだ、
「ねねーー」「知らない」
俺は入ってきた追手の言葉を遮って言う。
「え〜、なんか冷たくない?そんなんだとモテないぞ?」
「別にいい」
追手の女子生徒⋯高藤舞というらしい、がふてくされながら言ってくる。
この一週間で追手もこのように変わってしまった。
なんというか、俺はここに本を読みに来ているわけで…正直邪魔だ。
そもそも、俺はモテたくなんか無い。
自分の好きな人さえ好きで居てくれればよかったのに…
「そっかぁ〜、じゃ、わたし叶ちゃん探さなきゃだから。」
そう言って高藤は去っていった。
いつもなら、ここで平穏が訪れるのだが今日は違ったらしい。
「本、好きなの?」
突然、声をかけられ驚く
後ろを見ると、佐々木さんが後ろに立っていた。
「ど、どうして?」
俺は戸惑いながらそう返す
どうして向こうから話しかけてきたのだろうか、俺は無干渉で居たかったのに
「ここ、一週間ずっと居るから」
佐々木は迷い無く言ってのける。
こういう真っ直ぐなところも似てる。
「いや、たまたま初日に出会ってずっと待ち伏せしてるだけかもしれないだろ?」
俺がそう言うと、佐々木さんは驚いた表情をする。
「確かに、その可能性もあった」
少し抜けているところも似てる。
「でも、自分で申告したから多分違う」
佐々木さんは、また自信満々に言う
てか、申告て…
こうやって、考えを曲げないところだってよく似ている。
俺が、余計なことを考えていると佐々木さんが俺の持っていた本に指を指す。
「この本知ってる」
「そうなの!?感想とかある?」
佐々木さんの言葉に驚き、俺はつい食い気味に聞いてしまう。
まずいと思ったが、佐々木さんは嫌な顔一つせずに答えてくれた。
「設定が深く練り込まれててとても面白い、キャラの行動もしっかりと人物像に則っているのもすごい」
どうやら、彼女はしっかりとこの作品を読んでいるようだ。
誰しも、自分の趣味を人が知っていると多少なりとも嬉しいものだろう。
更に、佐々木さんが思っていたキャラと違ったためか、
気がついたら俺は佐々木さんと小説にいついて語っていた。
こんなつもりじゃなかったのだが…
しかし、不本意ながらも俺は学校で趣味の合う知り合いを見つけたようだった。
その日の帰りは、あの日のように きれいな青空だった。
〜〜〜
その日も、少し憂鬱な気持ちで歩いていた。
もともと少食だが、最近は更に食べなくなってしまった。
無理に食べても苦しいだけだからしていない。
苦しいのは胸だけで十分だ。
あの日の夢を今でも見る
「冬葉、別れよう。」
そう言って彼の目は私にしっかりとあっていなかった。
これだけじゃなく、昔のことだって思い出すようになってしまった。
たくさんの笑い声、震える私
あの時とは違ってヒーローは来てくれず、
ただただ苦しいだけ。
その時、眼の前に彼が見えた。
空を見上げてこころなしか楽しそうだ。
私のことは忘れて、幸せになれているのだろう
あぁ、それなら彼のために私も忘れないといけない。
今の自分にはそれくらいしかできないのだから。
彼が立ち去ったところをふと見ると、キーホルダーが落ちていた。
それは私と初デートに行ったときの思い出として買ったものだった。
神様はひどいことをする。
まさか本人の前で捨てさせるなんて、
きっと彼はもう本当に私のことを忘れたいのだろう。
私はそのキーホルダーを拾って家に帰った
彼に釣り合うようにと、泣かないようにと思っていたけどもう限界だった。
自室に着くと私はドアにもたれかかる。
私はキーホルダーを胸に抱いて静かに泣いた。
自室の小さな机の近くには2つの座布団が置いてあった
泣き終わったら片方を押し入れにしまうことに私は決めた。
それが今、私にできることだから
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
実は少し体調を崩してしまい、投稿が遅れてしまいました。
楽しみにしてくださっていた方がいらっしゃったら、本当に申し訳ありません。
さて、第3話では春也が転校生・佐々木さんと急接近。
一方で冬葉は…なんとも切なく、胸が痛む展開になってしまいました。
ぜひ、続きを楽しみにしていてください。
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それでは、また次回お会いしましょう。