1話 浮気された
それを見た時不思議と怒りは湧かなかった。
ただ、現実感がなかったのかもしれない。
でもたしかに、俺の中で何かが冷めた気がした…
「冬葉、別れよう」
そう話したのは、あの光景を見た翌日の事だった。
「な、なんで、急にそんな事言われても分からないよ」
昨日の彼女…冬葉が混乱したように言ってくる。
白々しい、自分でも気付いているだろうに
いや、もしかしたら彼女からすれば何も悪くない無いことなのかもしれない。
俺は彼女のことが本当に好きだったのに…
男の恋は名前をつけて保存、女の恋は上書き保存と言うように、俺への思いはもう上書きされてしまったのだろうか?
あんなものを見たのに、感情的に怒ったり、嫌いになったりできないところが名前を付けて保存の難点だ、
「昨日、知らない男と歩いているのを見たんだ、なんでなんだ?」
俺は冬葉に問う。
もしかしたら、何か理由があるのかもしれないと期待していたのだと思う。
「そ、それは、、、」
しかし、冬葉は俺の期待を裏切り、口ごもってしまう。
やっぱり、言えないんだな…
「とにかくそういう事だから」
そう言って俺は店を出た
もう何も聞きたくない、思い出は美しいまま置いておきたい。
今は彼女と話しても汚れてしまうような気がして、俺は彼女と話したくなかった。
〜〜〜
「え⁉︎お前別れたのか⁉︎」
翌日、学校で友達の高木健太が大声で言う
「声が大きいよ」
俺は健太に言う。
こんなこと、大声でする話ではないのだ。
「わ、悪い、動揺して、でもなんで別れたんだ?」
健太が聞いてくる。
こうなったのには理由がある。
朝いつも通り登校してきた、自分の中では…
でも、健太は何かを感じ取ったようで、俺に何があったのか聞いてきたのだ。
一番の友達だし、信用できると思って俺は簡潔に答えた、その後がさっきの大声である。
「浮気されたんだ」
俺は、健太の質問に答える。
「浮気かー、まぁ、これで春也も仲間だな」
健太は理由を聞いた後、特に何か感じた様子もなくいつもの調子で言う。
結構重い話だったと思うんだけど、
でも今はいつも通りの健太がありがたかった。
でもそうか、僕は彼女と別れたのか
ようやく実感が湧いてくる、彼女が欲しいかと聞かれたら分からない。
「今度合コンに誘ってやるよ」
健太が言う。
高校生の合コンってなんだろうか…
まぁ、誘われたなら行ってみてもいいかもしれない。
きっと楽しいこともあるだろうから
そんな事を考えても、僕の何かは冷めたままだった
〜〜〜
どうして、
ハルくんに別れ話を持ち出された時思ったことはそれだった。
でも次の言葉で納得した
勘違いしたのだ、浮気だと
でも、なんと言えばいいか分からない。
胸が苦しかった、痛かった。
伝えたくても、伝えられない。
気付いたら春也は、行ってしまっていた。
メッセージをしようにもなんと送ったらいいのか分からない。
ブロックはされていなかった。
きっと、わざとしていないのだと思う。
そういう優しい所がとてもハルくんらしいと思った。
もしかしたら、明日になったら元のように話せると思った、けれどそんなことはなくて、
次の日からハルくんは、話してくれなくなった
〜〜〜
「ごめんね、私のせいだよね」
私の親友の瀧口比奈が言う。
「ううん、大丈夫だから…」
私は比奈に言う、
それでも、彼女の申し訳なさそうな顔は変わらない。
「でも、まともにご飯も食べてないでしょ?」
比奈が私を見て言う。
「う、うん」
たしかに、ハルくんと別れてそれほど経ってないが、ご飯も少ししか食べていない。
前はハルくんに呆れられるほど食べていたのに。
だめだ…、またハルくんとの事を考えている。
ハルくんが望むのならキッパリ忘れようと思っているのに、
「とにかく、春也くんには私がお願いしてみるね」
しばらくしてから比奈が言う。
私が話しかけるよりかは可能性があるかもしれないが、比奈でも多分ハルくんは話を聞いてくれないだろう。
「…ありがとう」
私は比奈にお礼を言う。
僅かにでもハルくんと話せる可能性があるならそうしたい。
でもきっと、ハルくんとの関係がもとに戻ることはない。
私は薄々それを感じながらも目を背けていた。
〜〜〜
「悪いけど、ごめん」
俺は目の前の女子、瀧口比奈に言う。
彼女は冬葉の親友だ。
一度だけでいいから冬葉と話してあげてほしいという。
今は無理だ
でも、いつかはもう一度話したほうがいいのかもしれない。
「そっか、で、でも話したくなったらいつでも言ってね」
そう言って彼女は去っていった
去り際の彼女の苦しそうな顔が頭に残る。
いい友達に恵まれたんだろう。
…帰るか
そう思った時スマホが震えた
『もしもし、今いいか?』
電話の相手は健太だ
携帯から大きな明るい声が話しかけてくる。
「あぁ大丈夫だぞ」
俺は健太に言う。
まぁ、駄目でも無理やり通話を続けてくるんだろう。
でなきゃ電話なんかしてこない。
『明日遊びに行くんだけど一緒に行かね?』
健太が言う。
遊びに行く…か、
気分転換にはちょうどいいかもしれない。
「いいよ」
『よっしゃ、じゃあ明日な』
そう言うと健太は電話を切った。
なんともスピード感のある電話だった
何をするんだろうか、俺は明日を楽しみにしながら帰った。
〜〜〜
「で、何すんの?」
俺は次の日に集合場所で集まった健太に言う。
「もちろんナンパだけど?」
健太は何と言っているんだ、とでも言う様な顔で答える。
いや、もちろんってなんだよ…
「いや〜、彼女いた時お前は断ってたからな、良かったぜ、なんせお前、顔いいもんな」
健太は言葉を続ける。
健太だけとは絶対に遊びに行くなと冬葉に釘を刺されていたのはこういうことだったのか、
…自分は浮気したクセに俺がナンパするのは嫌だったらしい。
まぁ、何するか知ってたら行かないし、来なかったけど…
「あ、いい人見つけた、アタック」
健太が突然一人の女性に向かって走り出す。
「はぁ、待てよ」
そう言って俺は、健太を追いかける。
「痛って、急に止まるなよ」
立ち止まった健太に顔をぶつけてしまう。
健太に文句を言うも、返事がない。
どうしたのかと、彼の視線の先を見ると、とても綺麗な女性がいた
「どうしたんですか?」
「あ、いえ、その」
綺麗な人が現れると人は語彙力が減るんだなぁ
僕はそれを友達のおかげで知った。
恐らく使うことのない知識をありがとう。
流石に、女性に悪いと思って健太に小声で言う。
(おい、自分から話しかけて見とれてんなって)
(いや、奥にいるお姉さんに話しかけたかったんだよ)
健太の言う通り、奥を見ると本当にお姉さんがいた
しかも結構美人だ、
それでも目の前の人の方が美人だけど、でも何でこんなに綺麗な人より奥の人が気になったんだろうか…
(とりあえずなんか言えよ)
俺は健太に小声で言う。
このままでは挙動不審な男2人になってしまう。
こいつと同列なんて絶対に嫌だ、でも喋りかけるのも面倒くさい。
そう思っての言葉だったのだが…
(嫌だよ恥ずかしいお前が言えよ)
こいつ‼︎
しかし、いつまでも待たせるわけにはいかない
俺は、意を決して話しかけた!!
「あの…」
ビクッ‼︎
……
(なぁ、僕もう帰っていい?)
(お前が急に話しかけるからだぞ、顔だけはいいんだから)
こいつ‼︎
俺は全てを丸投げしてきた上にお前が悪いとまで言ってきた健太に殺気が湧いてくる。
(顔ならこっちも…)
俺はそう思い、相手の顔を見て気付く
(よく見たらどこかで…)
「わ、私の顔になにか、、、?」
俺が見続けたことで居た堪れなくなったのか、目の前の子が言ってくる。
「いや、もしかしてどこかで…」
なので、俺は自分の違和感を…
言おうとしたら後ろから肩を叩かれた。
後ろを見ると健太が小声で
(そういうベタなのはいいから、お前は黙ってろ)
と言って来る
こいつ‼︎
(そこまで言うならお前はできるんだよな?)
俺は健太に言い返す。
少し意地悪かとも思ったのだが
(ま、任せとけよ…!!)
と健太が言うので任せてみることにした。
腐っても日頃からナンパなんて行くようなやつだ。
俺には分からない必殺があるのかもしれない。
嫌なら予感がしなくもないが…
まぁここはおとなしく見ておくか。
「よ、よう姉ちゃん俺たちと楽しいことしない?」
健太は(残念な)笑顔で言う。
………
俺は健太の肩を叩く
すぐにあいつはこちらを見るので、俺はジェッチャーで伝えてやった。
張っ倒してやろうか?
健太は目の前の女性に謝った
〜〜〜
結局あの後、健太が
『あのお茶行きませんか』と言うと意外にもokされた
こいつにはナンパの才能があるのかもしれない
なぜ俺はダメだったのだろうか?
顔か?顔なのか?
俺は劣等感に打ちひしがれていた。
そんなこんなでカフェについた時に
「あ、それじゃあこれで」
と言って帰ろうと後ろを向くと
首根っこを掴まれる。
(おい、俺を一人にするな)
誰とは言わないが、誘ったくせにろくに話せないバカのために俺は残ることになった。
こいつ‼︎
カフェでは
俺が話しかけようとすると彼女(綾音というらしい)はビクッとなるし
健太は緊張するしで、気まずい空気が流れて終わった
しかし、健太は彼女と連絡先を交換できたらしい
昇天するんじゃねぇかと思うぐらい喜んでいた。
マジ昇天してくれねぇかな…
まぁ、俺は心の中で健太に言う。
良かったね。
……マジコンドオボエトケヨ
そういえば、少し気分が良くなった気がする。
健太のお陰だろうか?
やはり友達は偉大だ、彼女なんかよりも…な、
〜〜〜
はぁ、びっくりした
突然再会しちゃうなんてな〜
春也さん、でも関心しないなぁ
彼女さん居るってのにナンパなんて
もしかして別れたのかな?
私もチャンスあるのかな?
頑張ってみちゃおうかな?
疑問まみれの心の中、この後私はこの時の自分への嫌悪感に押しつぶされそうになることなんて知らない。
ただ、私は鼻歌を歌いながら家に帰った。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
もしかしたらこの話を知っている方がいるかもしれません。
僕が2年前に投稿した小説の改訂版です。
今日は少しだけ時間があったので手直しして投稿しました。
その時は、途中で投稿をやめてしまったんですが、次は絶対最後まで書き切ります!
コメントやブックマークなど大変励みになります。
ぜひお願いします。
次回はまだ見ぬ新しい話!
それではまた次回