夕立のあと
雨上がり、夏のある日にあなたに再会した。空を見上げていた、あなたのその視線が…。
空を見上げていたあなたに昔の面影を見たのは、その瞳が私を見詰めたから。
「よう、ツカサ。何年ぶりだ?…そうだな。俺の記憶では、4年ぶりか?」
「そうね。そんな気がするわ。高校以来かしら?」
交わった視線をあなたは、再びそれを空に向けた。何を見てるのかなと思ったら、それは飛んでいた。
「わかるか?あの燕の子かもしれんな」
懐かしい記憶と思い出、忘れたことはなかったけど、過去へと思いが戻されたような気もした。
「そうかもね。あの時の燕、帰って来たのかしら?」
再び視線が交錯する。燕は頭上を舞っていた。
「俺との約束も覚えているか?」
「さあ?何だっけ?」
そう答えたけど、私は覚えていた。あれはタダシがこの町を出て、東京の大学へ行った日だ。
頭上の燕がキュイキュイと鳴いている。何か言いたいのかしら。
夏の日差しが刺さるように降り注ぐ。先程までの雨を忘れるかのように。
「なあ、あの約束は今でも有効か?」
頭上の燕は甲高く鳴いたかと思ったら、どこかを目指して飛んで行ってしまった。目的地を思い出したか、それとも見つけたんだなと思った。
「ねえ?私との約束は覚えているの?」
「おお?質問に質問で返すのか?」
「いいじゃない。そういう約束だったでしょう?」
過去の記憶。懐かしい思い出。ふたりだけの秘密の約束。誰にも言わないでおこうと誓った秘密。それは今では…。
「もちろん、俺は覚えているぞ。それが約束だったからな」
「私もよ」
「で、その約束とは何だ?ツカサは本当に覚えているんだよな?」
「それは私が言いたいわ」
交錯する視線再び。
過去から現在へ。
遠くに虹が架かるのが見えた。綺麗。
「ツカサ、じゃあ、せえので」
「ええ、いいわ」
タダシが宣言するように言い放った。
「せえの」
『また会おう』
「お帰り」
「ただいま。待たせたな」
「そうね。そんな気もするわ」
「約束だったからな」
「そうね。約束よ」
「忘れるわけないよ」
「私も忘れないわ」
「こうしてまた会えたからな」
「そうね」
「じゃあ、行こうか」
「うん、行きましょう」
『一緒に』
夕立のあと