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資料1ー第2話

「警察は明日以降に到着するそうです」


 死体のあった部屋から食堂へ。タキシードの男性が発した言葉に一同はどよめいた。


「なんですって! それまでこの殺人鬼と一緒にいなくてはならないんですの?」


 ドレスを着た彼女は俺のことを指さした。


「だから違う。俺はやってない」

「犯人は誰だってそう言いますわ」


「まあまあ、いったん落ち着きましょう。まだ彼が犯人だと確定したわけじゃ……」

「じゃあ誰が殺したっていいますの? ここにはわたくしたち以外誰もいないのです! この男で間違いありませんわ」


「ではドクター・ウエサワのメールはどう説明されますかな? 彼は自分が獰猛な化物に殺されるだろうと述べています。ワシには彼が化物には見えません」


 老夫が指摘する。


「そんなの変身したに決まって——」


 彼女は語尾を窄め、押し黙った。そんなことを言ったら、この場の誰もが変身できる可能性がある。


「まだレスター様が犯人だと確定したわけではありません。いかがでしょう。ここは一つ、自己紹介といきませんか?」

「うん、そうだよね、そうしよう!」


 ブロンドヘアーの女性が同意する。白のシャツとデニムのズボン、そしてショートヘアが彼女の性格を物語っていた。


「あたしの名前はワン・シャオユウ。ヒローキー・コロニーにあるレストラン、レフェルサンスで副料理長をしています。得意なのは料理で、和洋中なんでも作れます。食べたいものがあったら何でもリクエストしてくださいね。短い間だけど、どうぞよろしく!

 ——ほら、次はあなた。さっきっから取り仕切ってるけど、一度も名乗ってないよね。はい、自己紹介して」


 シャオユウに指差されたタキシード姿の男性は、


「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。いえ、皆様てっきりご存知かと思ったのですが……」


 と、前置きすると一歩前に出てお辞儀をした。


「当方はグリーン・テック株式会社CEO、エリック・フォン・シュミットでございます。ここには余暇として参った次第です。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 一同の反応はシャオユウの時とは違った。グリーン・テック、エリック・フォン・シュミット。誰もが知っている新興企業とその社長だ。初めて見たとき人相が似ているなと思ったが、よもや本人だったとは。


「次はどなたにいたしましょう」

「ではワシが……」


 手を挙げたのは老夫だった。

 老夫は立ち上がり、白衣のようなコートを整えて話し始めた。


「ワシはアレックス・コリヤダ。ハルケンプ・コロニーの大学病院で医師をしております。ドクター・ウエサワとは数年前の学会で知り合ったのですが……残念です」


 眉をひそめると、ゆっくりと腰をおろした。


 彼の次に立ち上がったのは、アレックスの右隣に座るケープを羽織った中年女性だった。目立ったシワなどはなく、時折色気さえも感じられた。


エリック殿(ジェントルマン)、この場を進行いただきありがとうございます。此方の名はティアーナ・ハンマーシュタイン=エクヴォルト。奇術師として細々とではありますが、生計を立てている身分でございます。このトマス・プランテーションにも仕事の依頼を受けてやってきた次第にございます。短い時間ではありますが、どうぞ、よろしくお願いいたします」


「エクヴォルト様、ありがとうございます。では、隣の方」


 ティアーナの横にはメガネをかけた細身の男性が座っていた。年齢はエリックよりも若いから青年と呼ぶべきか。青年は目を左右に動かし、口をモゴモゴとさせると、勢いよく立ち上がった。


「えっと、その……お、俺氏は、イアン・テイラーと申し……いえ言います。あ、えっと、その、エンジニアをやっていたり、昔はしてましたが、その……、今は特に、働いていません。……よろしく」


 自己紹介を終えると、イアンは再び勢いよく椅子に座った。


 イアンの隣には、先ほどから俺のことを犯人よわばりする女性が座っていた。


「わたくしはイレーネ・エンリケ・フェリシア。ロッサノ・フェリシアの娘です。わたくしはフェリシア財団の株を三割保有しておりますの。あなたがたを路頭に迷わせるなんて造作もないことですから、口には気を付けることね!」


 彼女は俺のことを再度睨みつけ、腰を下ろした。


 次に立ち上がったのは二人の少年と少女だった。二人とも右目がブラウンで左目がブルーのオッドアイをしている。


「オレはハルカ。こっちがサヤカ。オレたちはキョウダイだ。よろしく」

「よろしくですぅ〜」


 オッドアイの兄弟、年齢は推測するに十代前半だ。保護者の同伴もなしに二人で島にきている。


 〝なにか〟あるな。


 サヤカの隣に座っている人物はフードを被っていた。オーバーサイズのパーカーを羽織り、マスクと左目に眼帯をつけている。男か女かも判別することはできない。


「……イ・ソヒ」


 高めの声が聞こえた。フードを被った彼女は脇目も振らずに端末を操作し続けていた。


 しばらくの間、イ・ソヒの端末をタップする音だけが食堂に響いた。


「あっ、イ・ソヒ様ですか。ありがとうございます。短い時間ですが、どうぞよろしくお願いいたします」


 エリックの挨拶にも彼女は反応せず端末を操作し続けた。社交性のない奴だな。


「では、最後にレスター様。改めてにはなりますが……」

「あ、あぁ……」


 俺は立ち上がると周囲を見渡した。相変わらずイレーネだけが怪訝な視線を向けている。


「レスター・ジョーンズだ。ピセム軍第七陸上部隊所属で、いまはわけあって休職している。ウエサワから警備の依頼があり、このプランテーションを訪れた次第だ。どうぞ、よろしく」


 イレーネが鼻で笑った。


「軍人って、もう確定じゃない。あなた、二階に上がったウエサワ様を一番に追いかけたわよね? 二階に上がった彼をあなたは軍から持ち出した銃で殺害し、第一発見者のフリをした。もう完璧じゃない」


「何度も言っているが、俺は殺していない。二階に上がったのは、彼が三十分以上も戻ってこなかったからだ。それに、軍の武器は厳重に管理されている。簡単に持ち運べるものではない」


「いいえ、嘘よ。なら、どうやって彼を殺したっていうの?」

「フェリシア嬢、それについてワシから一つ、提案があります」


 アレックスがシワシワの手を挙げた。


「ワシは医者の端くれです。どうでしょう。ワシに彼の検死をさせていただけないでしょうか」


 エリックがすぐに同意した。


「良い案ですね。では、お願いしてもよろしいでしょうか?」

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