ゴブリンの復讐
この森では最近ゴブリンが出没しているらしい。
「街の近くに来たゴブリンは討伐していいが、深追いは駄目。あちらから襲ってくる分には構わないが、こちらからわざわざ刺激する必要はない」
冒険者ギルドで言われた事を復唱していたら、ちょうど目の前に一体のゴブリンが現れた。
「グゲゲ?」
ゴブリンとは実に醜悪な見た目をしている。
全身緑色の肌、子供のような大きさ、身に纏っているのはボロボロの衣だけ。
「グゲゲ!!」
そして、頻繁に発する不快な奇声。
こんな醜悪な化け物がどうして生まれたのか、些か疑問である。
「グギギ!! グギギ!!」
ゴブリンは、謎の踊りを始めた。
「"火球"」
俺がかざした右手から、小石くらいの炎の塊が放たれる。
それはゴブリンの足下の地面へと直撃した。
「グゲ!?」
「......外したか」
突然飛んできた火の玉に驚いたゴブリンはすぐに背中を向けて走り出した。
「深追いはするな、だったな」
今回の任務である薬草採取は終わった。ゴブリンなど無視してさっさと街に帰ろう。
そう思い、踵を返そうとしたその時だ。
「あ、ゴブリン見っけ!!」
「私がやります!! "風刃"!!」
「とどめは俺に任せろ!!」
三人組の冒険者が現れたかと思えば、ゴブリンは一瞬のうちに殺された。
「早速ゴブリン一匹やれるなんて、幸先いいなこりゃ」
「ええ。これで少しでも街の皆さんの役に立てれば良いのですが」
「こんな所で立ち止まってる暇はない。さっさと行こう」
冒険者達は俺に気付くことなく、その場を後にするようだった。
「おい、ちょっと待ってくれ」
そんな彼らを俺は呼び止める。彼らのことなど気にせず街に戻っても良かったのだが、少し気になることがあった。
俺の呼びかけに答えたのは、パーティーのリーダーらしき剣士だった。
「ん? お、誰かと思えば"小心者じゃねえか」
"リトルハート"、いつの間にか呼ばれるようになった俺の二つ名だ。
この冒険者とは初対面だが、どこかで俺の噂を聞いたのだろう。
「君たち、今からどこに行くつもりだ?」
「あ? 決まってんだろ、ゴブリンの巣に行ってゴブリン共を一匹残らず駆逐するんだよ」
「森深くのゴブリンを討伐することは禁じられているはずだが」
「それは残った奴らが街に復讐してくる可能性があるからだろ? だったら復讐する気が受けるほどボッコボッコにすりゃ良いんだよ」
「やめておけ、危険だ」
「あ? てめぇみたいな弱っちいやつが俺に指図すんじゃねえよ!!」
俺の言葉にキレた剣士を他の二人が諌める。
「この方の言うことなど放っておきましょう。私達の使命はゴブリンの抹消なのですから」
「ああ。こんなところで時間を食う必要はない」
三人の冒険者達は俺の忠告を無視し、森深くへと消えていった。
「ああ、お帰りなさいませ。"小さき狩人さん」
「......その呼び方はやめてくれ」
「あ、すみません」
「それよりも、また無謀な冒険者だ。全部で3つ、俺のマジックバッグに入ってる」
「ああ、またですか。今回も、ゴブリンの巣ですか?」
「ああ」
「はあ、あれほど深追いはするなと忠告しているのに。まあ起きてしまったことを悔やんでも仕方ありませんね。
そういえば、どうしていつも仮面を被ってるんですか?」
「......醜い顔をしているからな」