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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき
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検察審査会の人々6

「えーっと……、こんにちは」


リビングのドアを開けて、有馬さんの息子さんが姿を現した。


たぶん会社の部下がいると推察したが全然それらしく見えない俺を見て、父の有馬さんとどういう関係なのか分からない顔で、でも取り敢えず挨拶だけはしておこう……、としたのだろう。


「こんにちは」


俺も、ソファーから立ち上がって有馬さんの息子さんに挨拶する。


「やっぱお客さんがいたんだ。初めまして、直純といいます。よろしくお願いします」


直純君は、紳士的な仕草で握手をもとめながらしっかりとした口調と朗らかな笑顔を向けてくれた。


俺と同じくらいの背丈だ。


「こちらこそ。初めまして、高山右近です。有馬さん…お父さんと同じく検察審査会に選ばれて、今日知り合いました。……ところで、直純君の着ている制服って私立九条高校だね」


握手に答えて彼の着用している制服を指さした。


「そうです、けど」


「だよね。俺の母校だ」


大阪の男子校にしてはちょっとお洒落なデザインだから分かってしまう。


「え、そうなんですか? 男子校だけど面白いヤツがいっぱいいて楽しい学校です。あ、ちょっと手を洗ってきます」


俺はソファーに座りなおして、直純君はキッチンに行って手を洗っているが構わず話し続けた。


「昔からそういうのが集まってきてしまうんだよ。もう学際の準備が始まっているんじゃない? 年間行事で一番盛り上がるのはどこの学校でも学際だと思うんだけど。ウチの祭りは派手で楽しいよ? 教師も地域の人達も一緒になって盛り上げてくれるから凄い事になっていてさ」


冷蔵庫からボトルに入った水を取り出して戻ってきた。


「中学組から話は聞いてますけど」


持ってきた水をテーブルに置いて制服のベストを脱ぎながら少し冷めた言い方をしている。


「中学組?……あぁ、引っ越してきたんだっけ。高校から九条の生徒になったのか。じゃあ初めての学祭だな。凄く盛り上がるから、うちのガッコ。クラス発表は何やるのか決まってるよね?」


まぁ、直純君と中学組との温度差があるのは仕方がないことだろう。


夢の国に遊びに行ったようにみんなが燥ぐから。


学生にしてみれば少し変わったカラーの制服の九条高校は、中学から大学までの一貫教育を謳っていて、自立心・向上心・尊重を教育方針に組み入れて実践し、生徒会を中心に楽しい学生生活を常に支えている学校だ。


他の学校でも同じような教育方針を掲げているのだろうけど、何故かうちの学校は当たり前の様に全てを実現できてしまっている。


高校や大学から入ってきた学生はまず学祭のスケールに驚き、「来年は自分たちが新入生を相手に遊んでやろう」という感じで学祭を盛り上げるための努力を惜しまない、謎の伝統を受け継いでくれている。


教員も便乗して一緒に日頃のストレスを発散し、楽しむというのも秘かな伝統になっているらしい。


俺は九条学院中等部に入る前から有言実行と好奇心旺盛な性格だったから、中学から大学までの十年間ずっと実行委員をやっていた。


俺の座っているソファーの近くで腰を下ろし、直純君は水を一口飲んだ。


「高校からの入学って大変だったんじゃない? あ、優秀なんだ」


「大変? 優秀? なんで?」


天然か? 首を傾げた姿がちょっと可愛いな。


「俺は中学受験だったから分からなかったんだけど、高校入学組の連中が入試の志願倍率が厳しかったって言ってたんだよ」


「四十人クラスで高校からの入学はオレ入れて三人しかいない」


「やっぱりね。……それで、学祭は何やるの? だいぶ進んでいるんじゃない?」


「具体的には、まだ?」


「えっ! ……ずいぶんのんびりしているクラスなんだねェ。毎年この時期になると血が騒いでくるはずなんだけどなぁ……。早いうちから準備するところは一学期の始業式が終わったHRの時からだよ」


「は? そんな早くから?」


「うん。まぁ、そのクラスっていうのは俺のクラスな。手の込んだ緻密な作業に没頭してたなぁ……。おかげで最優秀賞の常連だ。で、その賞品が学食三か月分の食券。学食で飯食ったことある?」


「旨いとは聞いてるけどまだ」


「まだなんだ。そっか。学生全員が目の色変えて競争心丸出しで、体育祭より皆の食いつきが違うんだよ。

毎年順位はつけてたんだけど賞品がなかったから盛り上がらなかったんだけど、『学食の食券を賞品にしたら学祭盛り上げようと頑張るんじゃない?』ってオレが提案したら採用されてね。当時中一の俺の一言がちゃんと聞き入れてもらえる懐の大きな学校なんだ。すごいよね」


体育祭は趣旨が違うので賞品は出ない。


主に運動部のためのイベントのようなものに進化していったので、文科系の部活や帰宅部にはあまり受けが良くなかった。


授業レベルは高いが、エスカレーター校だから普段のテストでの成績や生活態度が悪くない限り退学処分になる事はない。


入学してしまえば余程のことがなければ、又は、別の学校に進学を希望するなら別だが、もう受験勉強しなくて済むのが九条だ。


中学三年も、高校三年もストレスフリーで学祭に参加できる盛大なイベント。


それだけの説明を自分の経験を織り交ぜながら有馬さんと直純君に話して聞かせた。


「そうか。本社の関西出身の社員にきいて、この高校のことを教えてもらってネットでも調べて直純の進学先が決まったんだ。高山君の話を聞いていたら楽しそうだ。私も通いたくなってしまうよ。学祭には保護者も見に行ってもいいのかな?」


「勿論です! じゃあ一緒に行きましょう! 俺が案内しますよ! 本当に楽しいんです! 俺が保証しますから。直純君、友達と学祭の話は一学期にしなかった!? 派手で面白いって誰かに教えてもらってない?」


「はあ。中学組ははしゃいでいたけど、高校入学のオレたちは二学期から始めれば充分じゃんって思ってるから……」


「ははは、来年からはそのメンバーも燥ぐぞ」


「そうなの?」


「うん。クラスメイトにビデオ見せられたりはしなかったのかな……。まあいいや。俺全部の出し物ビデオで撮ってるから見せてあげられるよ。」 


「私が見たいよ。どんなことをしているのか興味がある」


有馬さんが先に言い出してくれた。


「折角だからオレも見てみようかな……」


直純君も少し興味が出てきたみたいだ。


「あ、そうだ。友達も一緒にみてもいい?」


「良いよ。説明が必要なら俺やるよ」

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