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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき
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検察審査会の人々2

午前の説明会の時に俺の前の席に座るはずだった『有馬晴信』のプレートの立ててある場所に座り、三十代くらいの男が静かにノートパソコンに目を通していた。


朝、姿を見せなかった人物が昼になって表れた、その有馬晴信さんに俺は興味を持った。


昼休みはボーっとしようかと思っていた頭が働き始めた。


「こんにちは、有馬さん」


俺は早速声をかけた。


直ぐにパソコンから視線を合わせてくれた。


「どうも、こんにちは。……あなたは?」


仕事先から直行してきたのだろうか、スーツ姿の有馬さんは挨拶を返してくれた。


「俺、…あ、僕は、高山右近っていいます。昼飯に行ってる間に机の位置が変わってますね。僕は、ここ、お隣ですね。これから半年間、よろしくお願いしますね」


自分の席だと教えてくれているネームプレートの置かれている椅子に尻を落とした。


「よろしく、高山さん」


「え?あ、高山さんなんて呼ばれると鳥肌が立つので、『君』にしてもらえません? 俺…僕まだ23やし。大学出たばっかりのペーペーなんですから。あと序に、今年は就職浪人なんで。はは。……あの、今朝は仕事やったんですか?」


「ええ。そうなんです。急にトラブルが発生してしまって、それは何とか解決できたので、急いできたのですが迷ってしまって。結局こんな時間になってしまいました」


「そうなんですか……車なんですか?」


「はい。これなら早く到着できると思ってたんですよ。でもこの辺りは一方通行が多くて、一つ曲がる場所を間違えると迷子になるんですね……。本当に焦りました」


確かに。


大阪市内は一方通行が多い。


そのことを知らなかったのを悔やんでも仕方ない。


何度も人に聞いてたどり着いたと、詳しく話してくれている内にコーヒーを飲んでいた審査員たちが戻ってきた。


「あ、どうもこんにちは。はじめまして、有馬です」


「あらあら、はじめまして。これからよろしくお願いしますねぇ」


ずいぶん緊張の糸が緩んできた俺たち第三郡の審査員は座席の配置が変ったねと、反応しながらそれぞれの席に腰を落ち着けて、残り半分の向かい側の席に座るはずの第二群の人達の到着を、談笑して待っていた。


予定の一時になる十五分前に、若い女性が会議室にやって来た。


鳴れた様子で部屋に入ってきたが。


「こんにちわぁ。……あ、そうか、今度はあっちに座らなあかんのか」


挨拶するなり独り言のように呟いて自分のネームプレートの置かれている席に自分の荷物を置くと、部屋を出ていった。


有馬さん達と雑談していた俺は、初めてみた二郡のメンバーの彼女が何故出ていったのか気になった。


「ちょっと、失礼します」


と席を立った。


彼女を探そうかとエレベーターホールに顔を出すと、彼女がいた。


「どうも」


俺は躊躇うこともなく声をかけた。


「ハイ? なんですか?」


きょとんと首を傾げ、ストレートな反応が返ってくる。


「いや、荷物置いてすぐに部屋を出ていったから……」


「ああ、別に深い意味はないですよ」


軽く短い言葉でのやり取りを笑顔でする。


「そうなん? あ、俺、高山っていいます。……二郡なんですよね?」


「そうです。望月恵です、よろしくお願いします。高山さんも若いですよね」


「はい。23ですよ、俺。こんな堅苦しい大役を押し付けられて、どうしよう……って不安なんですよ。午前中も説明会とかでめちゃ緊張したし」


「23歳ですか? あーあ、やっぱ私が今回も最年少決定やなぁ……」


しみじみと、でも少し嬉しそうに彼女は呟いた。


「えっ? いくつなん?」


興味津々で、本当は女の子に歳を訊くのはいけないんだけど敢えて聞いてみた。


「一月でやっと21になったんですよ。ここに初めてきた時に最年少記録やって事務局の局長が言ってたから」


「は? 21!?」


「ハイ~。そーです」


苦笑交じりで受け流されているとポーンと機械音が控えめに鳴る。


エレベーターが到着した音だ。


扉が開いて、中からサラリーマン風の男性が降りてきた。


それに気づいた望月さんは男性に歩み寄る。


「誠一さん、時間ぴったり!」


「お? そうか? 恵ちゃんはいつも早いなぁ」


男性は話しかけてきた望月さんに爽やかな笑顔で答える。


「うん。今日はちょっと楽しみにしてたから。高山さん、こちらは向井さん。私と同じ第二群の審査員」


俺に振り返って簡単な紹介をしてくれた。


向井さん、俺と同じくらいの背丈で人懐っこい笑顔が女子ウケしそう。


「ども。高山です。よろしくお願いします」


体育会系ではなさそうな雰囲気を感じたので、俺は畏まらずに会釈した。


「こんにちは、向井です。よろしく」


同じように会釈で挨拶を返してくれた。


「誠一さん、三郡の人達の出席率めちゃ良いいから、びっくりした! 9人来てくれてる」


嬉しそうに報告している望月さんに微笑んで向井さんは制する。


「おぉ、そうなんか。ちょっと待っててな、事務局に行ってから聞くから」


二十代後半らしい向井さんはそう言ってじにむ入って行った。


彼の背中も少し嬉しそうな雰囲気が出ている。


「……それが言いたくてここで待ってたん?」


出席率が良かっただけで他のメンバーに知らせるって、いままでどれだけの欠席者がいたんだろう?


「うん、そう。今までの三か月はホンマに出席率が悪くて、毎回ギリギリやった。人数が足らんから議決出来んこともあったし」


「え、……だって、義務やなかった?」


「そうやねんけど。小さい子がいてるから~とか、仕事が忙しいから~とか。そんな人たちが多かったんや」


唇が僅かに尖っている。


「自分一人くらい会議を欠席しても大丈夫やろって、考えてる人もおるみたいやから困ってた……ん、やけど。良かった~!」


不服そうな顔からパッと花が咲いたような明るい表情になる。


「そうやったんか」


コロコロと変わっていく望月さんの感情はとても素直で忙しい。







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