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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき
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検察審査会の人々1

「まさか、ホンマに選ばれるとは思わんかったなぁ」


ぼんやりと、そんな独り言を呟きながら3週間前に説明会に参加した時と同じ建物の同じフロアにやって来た。


「これから毎週ここに半年も通うんかぁ。……『国民の義務』やっていうんやったら仕方ないわなぁ。就職失敗してフリーな俺には義務に文句は言われへん」


ガラス扉を開けて部屋に入ってみる。


お役所特有の色気のないカウンターの奥に、事務机がたくさん並んでいる。


「おはようございます……」


あー、緊張する。


扉から一番近いデスクで作業をしていたおじさんが、気が付いて白い歯を見せた。


「おはよう。君は……高山君やな。第1会議室に入っててくれるか? まだ全員揃ってないし、集合時間になるまで待ってて。会議室はこっち」


人懐っこい感じで、そんなに大きな声を出さなくても聞こえるのに、拡声器のような大声で次の場所に案内してくれる。


入ってきた扉をコピー機で挟んだ右側にまた別のドアがあって、スタスタとおじさんは歩いて行く。


それが会議室に続いているらしく、おじさんは中に入っていった。


後について入ると、『高山右近』と書かれたネームプレートが会議机の上に乗っていて、強制的にそこが自分の座る席だと指示されていた。


そろそろと、まるで警戒心丸出しの猫の様に椅子に座る。


隣には先客がいて、服装からみると30代くらいの女性が、やはり緊張した面持ちで座っていた。


ネームプレートには『平野智花』と書かれていた。


予定の時間が近づくに連れて、幅のある年代の人々が集まり、座席の数だけ出席者がやってくるらしいのだが、前の席は空席のままだった。


事務局の職員が電話で連絡を取ろうとしていたが捕まらなかったようで、少し慌ただしいやり取りが聞こえた。


いつ現れるのか分からない人を待っている訳にもいかず、予定通りに始めることになった。


まず、前回の説明会に出席できなかった人のために、もう一度この制度の説明をし、諸々の手続きをする。




最初にこの制度の存在を知ったのは、市の選挙管理委員会から送られてきた定形郵便でも一番小さい茶封筒だった。


何か悪い事でもしたのかと不安になったが、でも変な行動をしたわけでもないんだから、なにかの手違いで送ってきたんじゃないかと軽く考えて、封を切った。


『あなたは選挙権のある寝屋川市の成人の中から「くじ」で選ばれました』


と書かれている。


何のことだかさっぱり分からず、親に聞いてみても、そんな制度があるなんて知らないという。


しかし、市の選挙管理委員会からだし、冗談でこんな手の込んだイタズラはしないだろうと、自分を落ち着かせた。


それからも数回、選挙管理委員会から『選ばれました』の通知がやって来て、3週間前に最終のくじ引きの前にこの制度の詳しい説明会を開くと書かれていた。


何度もやってくる通知に興味を持ったので、指定された場所に行った。


それが、大阪地方裁判所の中にある、検察審査会だ。


その1週間後、高山家の郵便受けにA4サイズの茶封筒が、自信満々の面で鎮座していた。


俺、高山右近は、審査員に選ばれてしまっていた。




今現在、前回の説明会で理解し、この制度の在り方も分かっている。


これから半年間、期限付きではあるが、裁判所の非常勤の職員として、大阪地方裁判所敷地内の検察審査会で、週1でここに通うことになった。


両親は、滅多にできない体験だからと、心配しながらも応援してくれる。


専門の知識を欲しているのではない。


一般国民の良識を反映させるためであり、法曹の常識と一般の常識の違い、例えば検察は無罪でも世間はアウトだと思う事はあるわけで。


その判断を検察審査会がやる。


選挙権のある成人なら誰でも選挙管理委員会から検察審査会から選ばれるのだった。


気軽に、日当も出るならとも思う。


しかし、芯ではしっかりと真剣にこの制度に協力し、積極的に取り組みたい。


ちょっと重い気持ちもブレンドして、改めて説明を聞いていた。


検察審査会とは、犯罪が発生すると警察が犯人と考えた被疑者を逮捕し、警察で集められた捜査資料や記録、供述調書とともに検察庁に引き継がれる。


検察庁では検察官の目でもう一度この被疑者や捜査記録等を見て、被疑者を裁判に処罰を求めるべきかどうかを検討する。


日本では、被疑者を裁判にかけるかを決める権限は検察官にだけ与えていて、検察官は有罪と思われる者でも犯罪の軽量や状況、被疑者の性格や境遇など、いろいろな事情を考えあわせた結果、処罰する必要がないと判断した場合には起訴しないことがある。


それだけに検察官はミスしないように、日夜努力を重ねているが、彼らも人間であり、誤って無実の人を起訴したり、処罰すべき人を起訴しない、ということもあり得ないでもない。


無実の人を起訴した場合は裁判所が無実の判決をして、その人を救うことが出来るが、処罰すべき人を起訴しなかったら、裁判所は検察官が起訴しなかった事件を勝手に裁判することは出来ない。


処罰されるべき人は処罰もされず免れてしまうことになるのだ。


検察審査会とは、このような裁判にかけられるべき人を、裁判にかけなかったことが良かったのかをチェックする機関なのだ。


10時から始まった説明と手続きは、11時半をまわって終了した。


午後は俺たち第三郡の審査員と補充員よりも三か月前から審査をしている二郡に人達との顔合わせが予定されている。


司会兼説明係だった事務局の課長から、昼休みにすることを告げられて、緊張の糸を緩め裁判所の地下にある食堂に案内してもらった。


みんなでこの食堂のことを誰からともなしに話し、一般企業の食堂よりも安いと言いながら、定食を腹に納める。


食後はオレを除く人たちは向かいにある喫茶店でコーヒータイムにすると言うので、オレは一人で審査会の会議室に戻った。


食後はいつも一人でのんびりと過ごすことにしている。


会議室のドアを開ける。


午前中は全部の席がホワイトボードに向けられていたが、今はコの字型に整えられている。


先客がいた。












検察審査会に選ばれて実際に経験したことがあります。

本当にいろんな業種の方がいらっしゃいました。

私が経験したのはもう25年ほど前のことなので、システムが変ってしまっているかもしれませんが。いろんなことを思い出しながら書いて行こうかなと思っています。

守秘義務があるので、実際に起こった事件の詳細や個人名などは絶対に公表できませんので(というかもう忘れてしまった……)稚拙な私の脳内妄想での事件をひねり出して挑戦したいと思います。

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