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プロローグ

昼休みのチャイムが鳴る。普通の学生なら喜ぶものだろう。俺も少し前まではそうだった。今となれば昼休みのチャイムはいじめが始まる合図だ。


ほら、今日も来た。どうせパシリだろ。


「おい!パン買ってこい!」

「じゃあ俺のもよろ〜っ!」


これは岩上と金魚のフンのようについて回ってる矢野。

岩上とは小学校からの付き合いで昔は仲が良かったが、いや、単純に孤立しないように利用されてただけか。高校に入ってからは関係が希薄になり率先して俺を馬鹿にするようになった。


「うん……じゃあ、なんでもいい?」


 随分と奴隷根性が染みついてきたようで、反抗する気力もない。反抗したらまたクラス全員の前で晒し上げられる。


 これが俺の日常だ。

 高校に入学してからの一年間、今に至るまで俺は岩上と矢野の奴隷だ。

 虐められていると認めると自分がゴミのように思えてくるから、あくまで岩上とは友達であるかのように自分を騙してきた。

 無理やりやらされている訳じゃなく、自分に言い訳してきた。そんな意味のない日々を過ごしている。


「また高宮くんを虐めてるの?恥ずかしくないのかな?高校生にもなって虐めなんて。」


声の主は学級委員の柳川さん。こいつはこいつで自分に矛先が向かないように立ち回りつつあくまで擁護側であると演じ続けている。


「はあ? 虐めじゃないって!ちょっとおつかいに行ってもらうだけじゃねえか。なあ高宮!俺たち小学校からの友達だよな!」


 岩上は小賢しい男で、腹は殴っても顔は殴らない、近くに教師がいる時は足をバレないように踏む。それにおべっかも上手く使い教師に気に入られる。俺をパシる時は、必ず俺のジュース代を握らせる。まぁパックの小さいやつ買えるギリギリの値段だけど。


「そうだよ勘違いだって。俺たちはこれでも親友なんだから!なぁ!」

と矢野が答える親友と思ったことは一度もない。と言うか矢野に至っては下の名前すら知らない。

 コイツは自分が虐めに加担しているとは思っていないのかもしれない。自覚してない分なおのことタチが悪いのだが。


廊下にまで響く笑い声。人を馬鹿にして何が楽しいんだ。いや、楽しいんだろうなぁ。だからいじめはなくならない。パワハラなどもそれが理由だろう、集団で一人をやり込めて簡単に優越感に浸れる。これほど単純に暴力性が満たせる行為も中々ない。ついでに虐めの四層構造か。加害者、被害者、観衆、傍観者。いや、これは関係ないな。ただ楽しいんだろう。他人を見下せればそれでいい。


さて、お望み通りにパンを買ってやり教室に戻る。それで昼休みは終わった。後2時間耐えたら家に帰れるんだ。これくらい我慢だ我慢。


5時間目のチャイムがなり授業が始まる。


授業開始から約15分目の前が眩い光に包まれる。


「ここは……?」


 気づくと俺は見知らぬ建物の中にいた。


「嘘、どこっ!?」

「なんだ?なんだ!?」


 いや、俺だけじゃない。一緒に教室で授業を受けていたはずのクラスメイトたちの姿もある。俺たちは教室で授業を受けていたはず。どういうわけか俺たちは見知らぬ場所に移動している。


「どこなんだよ!」

「あなたたちは誰?」

「一体何が起きているんだ!?」

「みんな少し落ち着こう」

「これは、もしや……?」


 皆が皆、落ち着きもなく騒いでいる。皆んな仲良い友達と現状を確かめ合っているようだが、俺にはそんなことをする相手はいない。いじめられてるし。ただ、一人で周りを観察するだけだ。

「ここは……?」


 気づくと俺は見知らぬ建物の中にいた。


「嘘、どこここっ!?」

「なんだ? なんだってんだ!?」

「まさか、まさか……」


 いや、俺だけじゃない。一緒に教室で授業を受けていたはずのクラスメイトたちの姿もある。

 だが、そうだ。俺たちは教室で授業を受けていたはず。こんな知らない建物の中にいるはずがない。

 明らかに前後のつながりがおかしいが、どういうわけか俺たちは見知らぬ場所に移動している。


「ここどこだよ!」

「あなたたちは誰?」

「一体何が起きているんだ!?」

「みんな少し落ち着こう」

「これは、もしや……?」


 皆が皆、落ち着きもなく騒ぎ立てている。混乱している様子で仲のよかった者同士現状を確かめ合っているようだが、俺にはそんなことをする相手はいない。

 クラスの人気者に会話に入るなと言われるようなぼっちだからな。

 ただ、一人で周りを観察するだけだ。


 さて、映画やゲームで見るようなきらびやかな装飾の内装に甲冑姿の兵士たち、そして、何より目を引くのは玉座に座る王とその前に立つこの世のものとは思えないほどの美しさを持つ少女だろうか。


 一度、深呼吸しよう。うん。何もわからん。


「皆さん、落ち着いてください!」


 玉座の付近にいる少女が一際大きな声で叫んだ。


 反射的に、そんなこと言われて落ち着けるか、という思考が思い浮かぶが、何故か不思議と心が落ち着いてしまう。

 ざわめいていたクラスの全員が黙って少女の方を見ている。

 なんか気持ちの悪い違和感があるが、俺もおとなしく少女を見た。


「ありがとうございます。私はガルザリア王国第一王女ヒューガルダ・ガルザリアと申します。皆さんを異世界よりこの場に召喚したのは私です」


 そう言うとティアラを被った金髪碧眼の少女は俺たちをじっと見つめてくる。

何かを言おうとしてやめた。ただお姫様に睨まれただけで黙り込んだ。

 やはり、何かがおかしい。


「皆さんを召喚したのは他でもありません。この国を魔王国の魔の手から救っていただきたいのです」


 お姫様は悲痛そうな声に何故かフィクションの感動シーンを見た時のようにじーんと胸に響くものを感じる。

 先ほどから気分が悪い。感情を誘導されているような違和感がある。


「あの、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう」


 誰に対しても不躾な態度を取る平野が敬語を使っている。普段オラついてる男が落ち着いているのを見るとやはり、何かあると思わざるを得ない。


「救ってくれって言ってますけど、そんな義理もないので返してくれませんか?」


「返してもいいですが、本当に帰りたいですか?」


「いや、その、確認ってか、え、帰れるんですか?」


「ええ、帰れますよ。ただし、ランダムな場所に転移させますので火山の火口などに落ちるかも知れませんね。」


嘘だ絶対に嘘だ。しかし、転移させる方法が向こうしか知らない以上これは「殺されたくなければ従え、従えば帰れるかも知れない」という脅しだ。


「そうは言ってもさー。あーしたちに国をどーこーする力はないと思うけど?あーしたちってただの高校生だし。」


ギャルの万場さんが突っ込む。

最もな言い分だ。


「皆様は素晴らしいスキルをお持ちのはずです!ステータスオープンと宣言していただければ自身のステータスを確認することができます。」


「ステータスオープン。」


試しに宣言してみる。

【名前】タカミヤ・ハルヒサ【種族】人間族 【年齢】16歳 【レベル】1 【体力】300/300

【魔力最大量】200

【ユニークスキル】

・抵当

【スキル】

・交渉能力Lv2・技術模倣Lv4


うわ、ホントに出た。周りもちらほらと試している。そして王女さんがツラツラと説明をしてる。ユニークスキルは1人につき一つ。スキルは成長に応じて獲得する。と


しばらくして眼鏡をかけた背の低いおっさんが出てきた。性格悪そうな顔してる。


「この方は鑑定のユニークスキルを持っています。皆さんのスキルを今から確認させていただきますね。」


「おぉ!!素晴らしい!!『限界突破』このスキルは初代勇者様と同じものです!!」


歓声が沸き上がる。素晴らしいスキルを持っていたのは岩上か。人をいじめては奴がなんであんないい思いを・・・ムカつくな。


「こちらの方は『アイテムボックス』!これまたレアなスキルです!」


次は矢野かよ。クソッタレが。


他の人もどんどんと鑑定されていきあとは俺だけ。


「『抵当』聞いたことないスキルですね。もう少し詳しく見てみますね。・・・あー、交渉の結果に担保をつけさせるスキル。戦闘系ではない、サポートもできない。無能の証です!!」


なるほどここで俺を吊し上げて戦闘に役立たない奴はこうなるってのを見せしめにする気か。


王女様も明らかに嫌そうな顔をしている。

ここらが潮時かな。


「王女様、発言宜しいでしょうか?」

「どうぞ。」

「私は戦闘系のスキルではなくここにいても邪魔なだけでしょう。そこで提案なのですが、少しばかりのお金と今晩の寝食をいただければここから出ていきます。」

「ふむ・・・いいでしょう。」

「あと、出て行くまでの安全を保証してください。」

「あぁ、わかった。もう下がって良いぞ。」

「交渉成立。」


そう言って王女様も兵士たちも散っていった。そして案内係の執事らしき人とメイドが出てきた。俺たちを案内してくれるらしい。


「よお!無能!!」


岩上か・・・ちょうど良い。


「俺は出てくからな。禍根を無くしたい。」


「は?なんだよ薮から棒に。」


「簡単な交渉だよ。この前俺が貸した5000円。キッチリ返してくれ。矢野、お前も貸した500円玉返せ。」

「チッ細かいな。わかったよ。」

「明日出てくまえにやるよ。」

「交渉成立。担保はお前たちのユニークスキルだ。」

「はっ、何言ってんだんなこと出来るわけねーだろバーカ!」


出来るかは知らんけど出来たらラッキー程度に思っておこう。


時は進み翌朝。兵士に叩き起こされ出て行くことになった。

門の前まで案内された。


「おい、ほらよこれでチャラだ。」


そこには5000円相当のこちらの通貨が入っていた。


「ほらよ!」


500円分のこちらの通貨。


「もう出て行く時間か。じゃーな。」


「その辺で野垂れ死ね!!!」


最後の捨て台詞まで嫌な奴で良かった。

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