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聖女と魔獣の子 2


 ***


「はああぁ……」


 シグナス様が帰ってこなくなり、早一週間が経過しようとしていた。

 気がついたとき、私は自室のベッドに寝かされていた。


「シグナス様」


 呼んでも返事がない。

 せっかく気持ちが通じ合ったと思ったのに、シグナス様がいない。


 王都周辺から魔獣は消えてしまい、今までのように辺境まで行かなければ、魔獣に遭遇しないと聞く。


「……でも、もしも魔獣と聖獣が根本的には同じなら」


 あの時、白い子猫にオレンジ色の光と暗いもやが吸い込まれていくのを確かに見た。

 だから、シグナス様は、辺境にいるのではないか。


「とりあえず、あの人に会いに行こう」


 いつまでも、へこんだままなんていられない。

 私は、先日振り込まれた大金が入った通帳を手にした。

 シグナス様は、私にたくさんのお金を用意してくれていた。


 そして、遠くにいる間も、手紙ちゃんを使って連絡してくれていたらしい……。

 けれど、そのお金も手紙も、残念なことに私には届かなかった。


 王位継承権を得るために、聖女候補として名が上がっていた私に目をつけた第七王子殿下。

 第七王子殿下は、私を奪ったシグナス様を恨み、お金や手紙が届かないように手を回していたそうだ。


『もう、手は打った……。奴が日の目を見ることはない』


 魔獣との戦いの合間に、暗く笑ったシグナス様の瞳に込められた怒りを私は忘れはしない。

 後日聞いた話によると、第七王子は、不正を全て暴かれて、塔に幽閉されることが決まったという。


 そんなことを考えながら、騎士団の駐屯地、扉を叩けば顔パスで通してもらうことが出来た。

 なぜ、こんなにすぐに通してもらえたのか、その答えはすぐに判明した。


「そろそろ、来る頃だと思っていたよ」

「アーレスティ卿。ご無沙汰しています」


 シグナス様不在のため、隊長代行として忙しいのは分かっていた。

 けれど、信頼してお願いできる人が私にはほかに思いつかなかった。


「……実は、子どもの預かり先を探しているのです」

「あの時、スプリング男爵令嬢が救った二人ですか?」

「ええ、少し王都を留守にするので……」

「そうですか。お預かりしましょう」

「へ!?」


 赤みを帯びた茶色の髪と瞳が、優しく弧を描く。精悍な顔つきが、ひととき可愛らしく見える。


「――――スプリング男爵令嬢が困ったときには、力になって欲しいと、隊長が頭を下げてきたので」

「シグナス様が……?」

「ええ、頭を下げる姿なんて初めて見ました。それに、あなたには隊員共々何度も助けられている。どんな頼み事でも聞き届けるつもりでした」

「アーレスティ卿……」


 いつも、シグナス様は私の知らないところで動いてくれている。

 私は、そんな彼に何もしてあげられないのに……。


「ところで、どちらに行かれるのですか?」

「辺境です」

「あの、危険地帯にですか……!?」


 アーレスティ卿には止められたけれど、シグナス様はきっとそこにいる。

 なぜか、確信を持ってしまった私の決意が、揺らぐことはないのだから。


 ***


「だからって……」


 水色がかった灰色の髪に、青い瞳の騎士様は完璧に遠征するための準備を整えて、私の横を歩いている。


「俺も、シグナス・リードル卿には恩しかありませんし……。護衛しないと戻ってきたときに、氷点下の瞳でにらまれそうですし」

「だからって、ウィンター卿にだって、職務があるでしょう?」

「こちらをご覧ください」


 王立騎士団の新人騎士、ライル・ウィンター卿はどこか自慢げに一枚の証書を提示する。

 そこには、遠征任務を遂行するようにアーレスティ卿のサインが入っていた。


「命令書です。ところで、辺境には関所があります。現在、危険地帯のため一般人は入ることが許されていません。どう入るつもりでしたか?」

「うっ……」


 考えなかった訳ではない。それでも、じっとしていられなかった……。


「この命令書があれば、堂々と入ることが出来るのです」

「――――ウィンター卿!! どうか、同行をお許しください!!」

「ええ、もちろんです!!」


 私は、背に腹は代えられず、思いっきり頭を下げる。

 どうしても、辺境に行かなければならない、その気持ちは刻々と強くなるばかりなのだから。




 

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