表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

二足歩行の猫と聖女 4



 少し冷える早朝、温かい毛並みがそっと、ベッドから出て行く気配がした。

 音を立てないように忍足で去ろうとしたのに、動揺を隠しきれなかったのか、テーブルのお皿を落として割ってしまったらしい。


 パチリと目を開ければ、気まずそうなシグナス様と目があった。


「シグナス様、体調はいかがですか?」

「君は、淑女としてだな」

「ふふ、私たちは婚約者ではないですか」

「…………はぁ」


 ツカツカと今度は足早にこちらに戻ってきたシグナス様は、いつ見ても目がチカチカしそうなほどの美男子へと姿を変えた。


「っ、シグナス様」

「はは、この姿になると、とたんに大人しくなってしまうな? リーナ・スプリング。猫の姿だと安心か?」


 ベッドの上に横になったままの私を挑発するみたいに、シグナス様はそっと乗り上げてきた。


「えっ、と、あの」


 あまりの美貌にクラクラしてしまう。

 たしかに、猫の姿だと思って油断していたのかもしれない。


 でも、猫の姿でも、美貌の騎士様の姿でも、シグナス様はいつだって。


「カッコ良すぎるから、困ります」

「は、はぁ!? この状況でよくそんなことが言えるな!?」


 そして、本当に可愛らしい。

 どうして、嫌われていると、私になんて興味がないと思っていたのだろう。


「シグナス様、無茶しないでください」

「リーナ、君にだけは言われたくない」

「……シグナス様のことが心配です」

「――――リーナを守るのは俺だけだ。遅れをとったりしない」


 シグナス様は、わかっていない。

 昨日の晩みたいに魔力を使い果たして帰ってきて、やせ我慢されたら、心配しないはずがないのに。


 まだ、私の頭の横に手をついて、ベッドに乗り上げたままのシグナス様。

 私も肘をついて起き上がる。


「好きです。キスしてくれませんか?」

「リーナ」

「約束のキスです。私の元に、必ず無事で帰ってくると」


 少し眉を寄せて、それでも私の頬に手を添えたシグナス様は、そっと私に口づけをした。


「約束しよう。いつだって君が、唯一帰りたい場所だから」


 けれど、シグナス様は、そのあとも魔獣と戦い続けた。

 聖女としての私を守るため。

 そして、魔獣に墜ちた聖獣を探すため。


 王都にはひととき平和が訪れる。

 シグナス・リードルの活躍により。


「ミュ?」

「えっ!?」


 けれど、危機はいつだって、知らぬ間に目の前まで忍び寄っているものだ。


 私は、信じられないできごとを前に固まっていた。

 子猫を咥えた、大きな白い猫。

 間違いなく、普通ではないその猫に、私は思い当たりがある。


「シグナス様が、探したときは出てこないのに、どうしてこんな王都の真ん中に」

「ミュー!」

「はっ、離して!」


 そう叫んだ次の瞬間、私は巨大な猫の背にいた。

 何かの魔法が使われているのか、身動きが取れない。


 その時、黒と金色の小さな二つの影と手紙ちゃんが、部屋に入ってくる。


「リーナ!」

「アベル! リンダ! こちらに来てはダメ!」


 強い風が吹いて、勢いよく窓が開く。

 次の瞬間、浮遊感とともに、走り出した大きな猫に私は連れ出されていた。


最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
colink?cid=61358&size=l
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ