二足歩行の猫と聖女 2
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翌朝、目を覚ますと、シグナス様の姿は、白銀の髪と時折緑に見える金色の瞳をした美貌の騎士様になっていた。
腰に差した白銀の剣には、空色のリボンが結ばれている。
「……シグナス様、そのお姿は」
「……王宮に、猫のような姿で行くわけにはいくまい」
「いいえ……。私が言いたいのはですね」
シグナス様は、口の端を意地悪げに歪めると私の耳元に唇を近づけた。
そう、私が言いたいのは、自分の意思で、そのお姿に戻ることができるのですか? ということなのですが。
「――――リーナ・スプリング。大人しくしているように。無駄に魔法を使わないように。誰かをかばって危険に陥るなど、もってのほかだ」
「し……信用がない!!」
「当たり前だ。何度、君のことを危機から救い出したと思っている?」
「く……」
シグナス様が、私の髪の毛をクルクルと指先に巻き付ける。
そのまま、唇が私の髪に近付いてくる光景が、私の心臓を止めそうになる。
「俺が王位を諦めない限り。聖獣を救うために行動する限りは、この姿だ。だから、俺の決心を揺らぐような言動は慎むように。リーナ・スプリング」
「……シグナス様の安全が第一です。もし、危険なことなら、猫の姿のまま、そばにいてほしいです」
一瞬だけ、シグナス様の姿が、白い猫の姿と重なって見えたように思えた。
けれど、それは幻だったのだろう、目をこすってみれば、やっぱり私の目の前にいるのは、人外の美貌を持った騎士様だった。
「――――っ、今のは危なかった。君は聖女ではなく悪女なのではないか?」
「ひどいです……。聖女ではないですが、悪女でもないと思います」
「どうかな。……少なくとも、俺にとっては、心をもてあそぶ悪女で……」
クルクルと髪の毛が指先からほどける。
「たった一人の……」
見つめ合う時間は、いまだになれない。
ずっと、目を合わすこともできずに、半径50cmの距離が近付くこともなかった私たち。
それなのに、今はこんなに近くて、しかもこんなにも見つめ合っている。
「そういえば、聞いていなかったな。君は、聖獣と王国を救いたいか?」
「……え? そうですね。大切な人がたくさんいますから」
「――――そうか」
その言葉は、もしかしたら、不正解だったのかもしれない。
シグナス様が無茶をしないためには、シグナス様が猫の姿に戻ってしまうような、悪女のような言葉をもっと言うべきだったのかもしれない。
けれど、そんなことに気がつくこともできないまま、運命はやっぱり動き出してしまっていた。
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