表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

一緒にいる時間は家族みたいに 5



 魔獣用という粉ミルクを子猫はものすごい勢いで飲んでいる。

 よっぽどお腹がすいていたのね……。

 ウニャウニャと、声を上げながら飲んでいる姿が、なんともかわいらしい。


「……お腹壊したり、しませんよね」

「――――ああ。先ほども言ったが、魔獣と動物の根本はそこまで変わるまい」

「……それはいったい」


 魔獣は人を襲う。動物とは違う生き物だと思うのに……。

 でも、それならばなぜ、魔獣を見たときに私たちは、なんの動物の魔獣か、すぐにわかるのだろう。


 子猫から目線を外して、シグナス様を見上げる。

 やはり、見るたびに寿命が縮むのではないかと思うくらい、心臓が高鳴るほど麗しい。

 こんなお方と婚約者だなんて、やっぱり何かの間違いでないかしら?


 シグナス様は、珍しく頬杖をついて子猫を見つめていた。


「なんだか、家族みたいですね」


 その横顔が優しすぎたから、思わず私が余計なことを言ってしまったのも仕方がないだろう。

 一瞬シグナス様の、緑色を帯びた金色の瞳が、大きく見開かれ、その顔が私の方を向く。

 驚いたような顔のまま、シグナス様が私のことを見つめてくる。


「……余計なことを言ってしまいました」

「…………」


 いつものように、冷たい言葉が返ってくると思ったのに、シグナス様は何も言わない。

 ただ、まっすぐに私のことを見つめているだけで。


「……君は、そうあればいいと思うか?」

「え?」

「俺と、リーナが、その……。家族になればいいと」

「当たり前です」


 そう、当たり前だ。

 絶対叶わないと思って、考えないようにしていたけれど、シグナス様と家族になって、毎日こんな風に穏やかに過ごすことができたなら、どんなに素敵だろう。


「そうか……」


 シグナス様が、私の手に大きな手を重ねる。

 その顔が近付いてきて、緊張のあまり目をつぶってしまった直後、フンワリとした感触が唇に降りてくる。


 ふわふわの感触が離れていった。

 そっと、目を開けてみる。

 そこには、不思議なほど色が変わる瞳をした、白い猫がいた。


「……戻ってしまったのですか、シグナス様」

「そうだな」

「……二足歩行の猫」


 それは、王国に住む人間なら、誰もが幼い頃から、繰り返し聞く物語だ。

 聖獣信仰が盛んなこの国で、長い年月大人から子どもへと語り継がれてきた。

 その物語は、普通に考えれば起こることのないはずの、おとぎ話だ。


 再び猫の姿になってしまったシグナス様を、正面に見つめる。

 どうして、思い至らなかったのだろう。

 本当に私が聖女候補なのだとしたら、シグナス様と私に起こっている今の状況は、あまりに二足歩行の猫のおとぎ話と似すぎていることに。


 真剣なことを考えたとたんに、何故か鳴り響いてしまった、私のお腹の音。


「あ、お食事途中でしたよね」

「俺に食べさせるより先に、君が食べるべきだな。リーナ・スプリング」


 楽しそうに、からかってくるシグナス様は意地悪だ。

 赤面した私は、先ほどの疑問を胸の内に秘めて、小さなサンドイッチを口に放り込んだのだった。

最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
colink?cid=61358&size=l
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ