一緒にいる時間は家族みたいに 4
それにしても、これはいったい。
ピッタリと隙間もない距離。
たしかに、シグナス様は、私のことを愛していると……。
それに、シグナス様が、いつの間にか猫の姿ではなくなっている。
「あ、あの……。猫から、人に戻れたのですか?」
「ん? ああ……。そうだな、選んだから」
「選んだ? 何をですか」
少しだけ、感じる嫌な予感にフルリと小さく体を震わせる。
シグナス様の瞳が、金色の光を帯びてどこか剣呑な雰囲気で輝いている。
「聖獣を、救い、この国を守ることを」
「……聖獣?」
それは、昔話の中だけの存在では……。
「いるんだよ、たしかに存在するんだ」
「えと、救わないといけない状況なのですか?」
シグナス様が、微笑む。
「君が心配するようなことではない」
そんなはず、ないですよね。
いつものように、突き放されるような言葉。
でも、私はもうあきらめないことにした。
「……シグナス様、私は婚約者です」
「そう、だが」
「大好きな婚約者が、危険なことをしようとしているのに、心配しないわけがないですよ!」
「…………リーナ」
シグナス様は私のことを冷たい言葉で突き放しておきながら、いつも優しい。
何度も助けられて、守られて、でも私はそれを知らないなんて、とても悲しい。
「もう一度聞きます。私にシグナス様のことを、もっと教えてください。その姿になった理由も、子ども時代のことも、何を考えているのかも」
「…………リーナ。聖獣は、魔獣に墜ちた」
「…………は?」
それは、シグナス様についての話ではないと思います。
そう思いながらも、王位継承権、聖女、そして墜ちた聖獣……。パズルのピースが次々と当てはまっていく。
「あの」
「……このままでは、魔獣は増え続け、王都陥落も近い」
「……私にできることは」
「守られていてくれないか、今までのように」
今までのように、離れた場所で、守られている?
不意に窓から吹き込んだ強い風が、リボンがほどかれた、私の長い髪を乱していく。
「私は……」
次の言葉を告げようとしたとき、先ほど飛び立った羽の生えた手紙が、ひもでくくりつけられた小さな缶をぶら下げて窓から入ってきた。
ふらふらと、差し出した私の手のひらに降り立つと、元の手紙に戻ってしまう。
「手紙ちゃん……」
悲しそうな顔をした私を見たシグナス様が、手紙に指先で触れる。ほのかな青色の光があふれると、手紙にはもう一度羽が生えて、パタパタと私の肩に留まった。
「手紙ちゃん!」
「多めに魔力を流し込んだから、ひと月くらいは保つだろう」
「シグナス様! ありがとうございます!」
そうこうしているうちに、ミルクが届いたことに気がついたのか、部屋に走り込んできた子猫が、ミューミューものすごい勢いで鳴きはじめる。
ミルクの準備に席を立ってしまった私は、先ほどの続きをシグナス様に伝えることができなかった。
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