一緒の時間は家族みたいに 2
猫の膝に乗ってご機嫌な、黒髪に黒目の少年アベル。
「なあ。なぜ君が路地に突き飛ばして助けた少年が、この屋敷にいる?」
「ご両親が、行方不明ということで」
「ん……。それから、扉から覗いているのは、俺と出会った日に君が覆いかぶさっていた少女か?」
金の巻き毛に、青い瞳のお人形のように可愛らしい少女リンダは、猫の膝に乗った少年を、扉の隙間から羨ましそうに見つめている。
「ご両親が、行方不明と」
「改めて、よくわかった」
「……シグナス様?」
「君に、危機管理意識など期待してはいけないということが」
「二人はまだ、小さな子どもですよ?」
「…………俺が、この年齢の頃には、すでに君など簡単にさらうことも、手にかけることも出来た」
たぶん、真剣な表情で私を見つめているだろう、シグナス様。その瞳は、小さく揺れて、どこか不安そうだ。
私のことを心配してくれているのかもしれない。
でも……。
「……子どもの前ですよ?」
「……そうだな。……すまない」
「アベル、リンダ。もう夜遅いわ。白猫さんには、明日遊んでもらいましょうね」
「「はーい」」
ものわかりよく、二人は自室へと戻っていく。
よく食べて、遊んで。
初めのうちは、所在なさげにうつむいていた二人も、最近はずいぶん元気を取り戻してきた。
「……先ほどの話に戻りますが」
「ああ、俺の配慮が足りなかったな」
「いいえ。それよりも、シグナス様の子ども時代のこと、少し話してくれませんか」
背伸びをして、シグナス様の頭をそっと撫でる。
不安に揺れた瞳、そんな思いをさせたかった訳ではないのに。
「リーナ。俺の子ども時代なんて、気分のよい話ではないんだ」
「……私、もし許してもらえるなら、シグナス様のこともっと知りたいのです」
いつだって、絶体絶命の時には、助けに駆けつけてくれる、頼もしくて、素敵で、かっこいいシグナス様。
でも、私は、まだシグナス様のこと、何も知らない。
「……君は、いとも簡単に、俺の平常心をかき乱す」
「え……?」
次の瞬間、私の頬に触れたのは、すり寄るように私の頬を撫でた髭と押しつけられた柔らかい猫の毛。
「え……?」
くすぐったくなってしまった頬を思わず手のひらで押さえる。
まるで頬にキスされたみたいだったけれど……。
状況が理解できずに、シグナス様を見上げる。
緑がかった金色の瞳が、少し熱を帯びたように私を見下ろしていた。
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