【5】
高校生活が始まった。
入学早々の学力テスト。
これは入学式の日の衝撃を引き摺って全く集中できなかった。
それが終わったら検診祭り。
去年より6センチ近く背が伸びていたことだけが救いだった。
そして今は学力テストの結果の紙を握りしめながら、学年上位者が張り出された掲示板の前にいる。
「うわぁ、イチカちゃん総合3位だって!すごいねぇ!」
ツジの無邪気さが突き刺さる。
文系教科は惨敗だったけど、せめて理数はと思ったのに...教科別の欄にも僕の名前は無かった。
中等部では常に上位だったのに。
明らかに特進クラスの奴らのせいでレベルが上がってるじゃないか!特進め!
「坊ちゃん?」
・・・普段は校内で全く会わないくせに、何で一番会いたくない時には現れるんだ。
「それフィードバックシートですね?
ちょっと見せてください」
許可する前に奪い取られる。
内容を確認しながら、イチカの表情がだんだんと曇っていく。
「家庭教師の先生方とご相談しなくては...」
そう呟くと焦った様子で走り去ってしまった。
あんなに焦ったイチカは久々に見たな。
アハハ、テストに集中できなかったのはお前のせいだぞ。ざまぁみろ。
アハッハ...ハ...
自分の人間の器の小ささが嫌になるな...
そんな卑しい考えの罰か、この日からしばらくイチカと家庭教師たちからの問題集攻撃が続いた。
* * * * *
「では私はここで。放課後お迎えにあがります。」
「あぁ」
僕たちは毎朝昇降口で二手に分かれる。
特進クラスのある別棟に向かうイチカは、前だけを見て颯爽と歩いて行く。
そんな後ろ姿を名残り惜しむように僕が見つめていることなんて知らないだろう。
イチカは一度だって振り返ることはなかった。
「はぁ...」
思わず漏らしたため息を聞いていた人物がいたことに僕は気づかなかった。
* * * * *
「起立、礼」
やっと4限目が終わった。
「古文の授業は眠くなっちゃうよねぇ」
約束しているわけでもないのになぜかいつもツジがついて来る。
「橘くん、ちょっといいかしら」
カフェテリアに向かう渡り廊下の途中で声を掛けられる。
見知らぬ女生徒だったので僕は無視して通り過ぎた。
「ちょ、ちょっと待って。話があるんだけど」
「僕は無い」
女生徒を一瞥してそう答える。
「「えっ」」
女生徒とツジの声が重なる。
「話くらい聞いてあげなよぉ。僕、先に行ってるから。ねっ」
「そうよ。とりあえず話くらい聞いてよ。
ほら、こっちこっち」
無理やり僕の腕を掴んで歩き出す。
よくこんなに図々しく振る舞えるなと感心しているうちに僕たちは中庭に出た。