【4】
この学園は無駄に広い。
教室を確認するために校内図を見て愕然とした。
普通科棟だってたくさん余っている教室があるのに、特進は別棟ってどういうことだよ...
これじゃ普段の学校生活ですれ違うこともないじゃないか。
「私はこちらですね。では失礼致します」
教室が遠いイチカはさっさと行ってしまった。
「橘くん、僕らの教室ここみたいだよぉ」
この学園に知り合いなんて僕以外には一人もいないのに。心細いとかそんな感情は無いのか。
「席はここだねぇ」
イチカはいつもそうだ。
僕のことを頼ってくれたことなんて無い。
特進を受験することも相談してくれなかった。
それに..."あの時"ですら一人で全部を背負おうとして...
「橘くん、セレモニーホールに移動だって」
セレモニーホールって何だよ。
無駄に建物増やしやがって。
広過ぎて特進クラスの列なんか見えそうにもないじゃないか。
「橘くん...退場するみたいだよ?」
悶々としているうちに入学式は終わっていた。
* * * * *
教室に戻って自分の席に座る。
クラスメイト達は楽しそうに自己紹介し合っている。
ここにイチカが一緒に居てくれたら。
何度妄想しただろう。
鈴野と橘だから席は近いだろうな。
隣の席だったら...
授業中に真剣な横顔が見れたり。
時々目が合ったり。
はぁ、なんだか虚しくなってきた。
「橘くん、ホームルーム終わったよ?」
ツジが声を掛けてきたのと同時だった。
「あの子誰?」「可愛い!」「知らない」「外部生?」「綺麗な子」
廊下の辺りで騒めきが起こる。
人を掻き分けて廊下に出ると予想通りイチカが待っていた。
「坊ちゃん、お疲れ様でした」
周りの喧騒など気にも止めず、背筋を伸ばして立っている。
「帰るか...」
「あっ、あの...私今日は」
「ハナエの所だろ?僕も一緒に行くよ」
「ありがとうございます」
少しだけ俯いて、イチカは寂しそうに笑った。
* * * * *
「母さん、坊ちゃんも来てくださったよ。
今日は珀院学園の入学式だったの。
私たち、高校生になったよ」
「イチカのそばには僕がいるから。
心配いらないぞ」
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