【3】
学園に到着して高等部の門をくぐると、すでにたくさんの新入生やその保護者が集まっていた。
正面の掲示板の前には人だかりができている。
「橘く〜ん!」
掲示板の方から見慣れた顔が歩いてくる。
「僕たちA組でまた同じクラスだったよ!」
「へぇ」
「何でそんなに興味無さそうなの...。あれ、もしかしてこちらが噂のお世話係さん!?」
僕の隣に立つイチカに気づくとキラキラした目でツジは言った。
「僕、辻村真之と言います!橘くんとは中学でも同じクラスで一番の仲良しなんだ!よろしくね!」
「知貴様の御側仕えをしております、鈴野一花と申します。辻村様、宜しくお願い致します。」
イチカは恭しく頭を下げる。
「同級生なんだからそんな畏まった態度やめてよぉ。とにかくよろしくね!イチカちゃん!」
お前はちょっと馴れ馴れし過ぎないか...
「はい、よろしくお願いします」
そう言って微笑みかけるイチカにツジは見惚れている...
「イチカも自分のクラス確認してきたらどうだ」
二人の間に割って入るようにしながら、この場を離れるように仕向ける。
「はい、では行ってまいりますね」
イチカが掲示板に向かって歩いて行く。その後ろ姿をまだボーっと見つめているツジを軽く肘で小突く。
「あぁ、ごめん。見惚れちゃった。いやぁ本当に綺麗な子だねぇ。橘くん、学園の奴らになんか見せたくなかったんじゃないの」
人の気も知らずに呑気に言ってくれるな...
僕だってホントは誰にも見せたくないんだ。
でも学校に通わさずに屋敷に隠しておくわけにもいかない。
それなら僕の知らない場所で知らない誰かに笑いかけるイチカを想像して過ごすより、すぐそばで手の届く場所に居てくれた方がいい。
「僕にも色々あるんだよ...」
* * * * *
すぐそばで手の届く場所に。
そう思った直後、戻ってきたイチカが言う。
「1組でした」
「へっ?いちくみ??」
今日は"なさけない声を出す日"なんだろうか...
思いがけない答えに頭が混乱した。
「1組って!イチカちゃん特進クラスなの?
すごい!頭良いんだねぇ!」
ツジの楽しそうな声にイラッとしてしまう。
「特進って!そんなの聞いてないぞ!」
「そういえば聞かれていないのでお伝えしてなかったかもしれないですね。特進クラスだと学費が免除になるそうなので併願してみたら受かりまして。
もちろん旦那様はご存知ですよ」
父さんも何も言ってなかったのに!!
「それなら僕も特進クラスにする」
「橘くんでもさすがに無理だよぉ」
「うちが毎年いくら寄付金を積んでると思ってるんだ!」
「坊ちゃん...」
イチカが心底呆れたような顔をしているけど、今はそんなの気にしてられない。
「今から事務局に行ってくる」
「待って!」
走り出そうとした僕の肩をツジが掴む。
「あのね、橘くん。うちの学校の特進って超...ちょ〜偏差値高いんだよ...」
憐れんだような目で見つめられて、世の中にはお金で解決できないこともあるという現実を突き付けられた気分になった。
「坊ちゃん、お戯れはそのくらいにしてそろそろ教室に行きませんと」
打ちひしがれる僕のことなんてイチカはお構いなしなようだ。
とりあえず僕たちは校舎へ移動した。
やっと二人の名前が出ました。
坊ちゃん 橘知貴
イチカ 鈴野一花
よろしくお願いしますm(_ _)m