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「まあ、あなたには無理でしょうけど」「出来らぁ!!」

作者: わだち

箸休めにどうぞ。

 俺の幼馴染の怜香は金持ちだった上に優秀だった。

 成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗。どこをとっても非の打ちどころのない完璧人間。

 そんな幼馴染に対して俺は平凡な家庭で生まれた平凡な人間。

 当然つりあいなんて取れていない。

 怜香自身、俺のような平凡な子供には興味は無かったのか最初は素気ない態度が多かった。

 だが、俺は幼稚園や公園で彼女を見かけるたびに話しかけた。

 いつも一人の彼女を放っておけなかったのだ。


 そんな俺に対して、彼女も徐々に話しかけてくれるようになった。


「す、すげえ! 怜香、テストで百点取ってやがる!?」

「これくらい普通よ。まあ、あなたには無理でしょうけど」

「なんだと!? 俺にだって出来らぁ!!」


 それから猛烈に勉強し、時間はかかったが幼馴染に自慢されてから何度目かのテストで俺は初めて百点を取った。

 喜びのあまり小躍りしながら俺は幼馴染にそのテストを見せに行った。


「見ろ! 百点取ったぞ!」

「そう」

「あれ? そのトロフィーなんだ?」

「この間行われたテニスの大会で優勝したの。まあ、あなたには無理でしょうけど」

「なっ!? 俺にだって出来らぁ!!」


 その日から俺はテニスを始めた。

 最初こそ全然うまく行かなかったが、幼馴染の手助けもあり地区大会でもそれなりに勝ち上れるようになった。


「へへ。見たか、怜香。俺だってやれば出来るんだぜ」

「そうね」

「……ん? それ、なんの勉強してんだ?」

「これは〇×中学の入試問題よ」

「なっ!? あの都内どころか日本でも屈指の進学校である私立の中高一貫校か!?」

「ええ。私はあそこに通うの。それに学費免除の特待生枠よ。……あなたには無理でしょうけど」

「で、出来らぁ!!」


 それから地獄のような勉強漬けの日々だった。

 唯一の救いは両親が応援してくれたことと、怜香という最高の先生がいたことだろう。

 そして、俺は見事に〇×中学への合格を勝ち取った。


「ほら見ろ! 俺にだって出来たぞ!」

「ええ、そうね」

「あれ? 怜香の目元なんか赤くね?」

「……っ! め、目にゴミが入っただけよ」


 そう言うと怜香はそっぽを向いた。


 中高一貫校に入ってからも怜香に「あなたには無理でしょうけど」を言われることは無くならなかった。


「怜香すごいな! 生徒会に任命されたんだろ!?」

「ええ。あなたには無理でしょうけど」

「出来らぁ!!」


「怜香聞いたぜ! 街で芸能事務所にスカウト受けたらしいな!?」

「ええ。あなたには無理でしょうけど……これは本当に無理でしょうけど」

「出来らぁ!!」


「怜香凄いな!! 高等部に上がってからもう十人に告白されたんだろ!?」

「え、ええ……」

「……あれ? いつものセリフは?」

「言って欲しいの?」

「いや、言ってくれなきゃ調子狂うっていうか……」

「…………あなたには無理でしょうけど」

「出来らぁ!!」


 生徒会には入れた。芸能事務所では無かったが駅前で一発芸百連発をしてたら、知らない人に相方になってくれとスカウトされた。

 丁重にお断りした。

 告白に関しても、かなり努力したが誰にも告白されなかった。


「……十人に告白されるの、出来なかった」

「ふふ。それは残念ね」


 俺が失敗したというのに怜香は楽しそうに微笑んでいた。


 それから月日は流れ、俺と怜香が高三になった夏にそれは突然起きた。


「結婚する……!?」

「ええ」

「誰とだよ」

「成金君よ」


 それは、最近この学校に編入してきた男子だった。

 だが、その男子生徒には悪い噂が後を絶たなかった。


「な、なんで……?」

「どうしてもよ」


 そう言うと怜香は俺に背を向ける。


「私と結婚するなんて、あなたには無理でしょうね……」


 そして、寂しげにそう呟いた。

 だから、俺は大きく息を吸って、はっきりと言った。


「出来らぁ!!!」




**********



 あの日から、俺の闘いは長く続いた。

 国内有数の進学校に所属している利点を最大限に生かし、クラスメートや校内の有名な人物やその親たちの力を借り、俺は成金のあらゆる悪事を日の下に晒した。

 そして、成金が怜香を脅していたことも発覚し、無事に成金と怜香の婚約をぶち壊すことに成功した。


「怜香、好きだ。俺と結婚してくれ」

「……私も好き」


 そして、その数年後、同棲生活を経て俺は怜香と結婚した。



**********



 怜香と結婚してから初めての夜。

 ベッドの上に俺と怜香は寝転がっていた。


「へへ。どうだ。結婚出来ただろ?」

「ええ、そうね」

「あれ? 何見てんだ?」

「私の従姉が子供を産んだのよ。幸せそうな家庭ね。……私たちも幸せな家庭を築けるかしら」


 少しだけ不安そうに、でもどこか期待を含んだ目で怜香が俺を見つめる。

 だから、いつもの様に俺は口を開く。



 ――出来らぁ!

ありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 女に利用され続ける主人公が情けないなぁって、、、
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