ホワイダニット
そう言ってアリスは語り始めた。
「N国のある屋敷に主人と住み込みの家政婦の2人が住んでいた。2人は5年以上同じ土地で過ごしていたが、主人の意向でA国に移り住むことになり家政婦も一緒についていった。しかし、移り住んで数日経ってから主人は自殺してしまった。そして家政婦も殺されており状況証拠からは主人が犯人と思われたが、家政婦を殺害するような動機は見つからなかった。さて、主人はなぜ家政婦を殺したんだろう?」
語り終えるとアリスは僕に目を向けた。
「なるほど、ホワイダニットってことか」
ホワイダニットとは"Why done it?"、つまり"なぜ殺したか?"を解明することを主軸に置いたミステリ作品だ。ちなみにフーダニットは"Who done it?"で"誰が殺したか?"、ハウダニットは"How done it?"で"どのように殺したか?"というわけだ。
「ふむ、主人が家政婦を憎んでいたってのはナシってことだよな?」
「もちろん」
「うーん、A国に移り住んだことが関係してそうだけれど…」
「そうだね」
「A国で何かの病気に掛かって無理心中とか?」
「たったの数日でそれは無理があるさ。2人の健康状態はN国にいた頃と変わらない」
「うーむ、家政婦が殺してくれと頼んだりとかは?」
「してない」
「主人が錯乱して殺したとか」
「それを言ったら何でもありじゃないか。倒錯系ならともかく」
僕はその後もしばらく考えこんでいたが、結局それらしい解答は思いつかなかった。
「わからないよ。降参だ」
それを聞いてアリスはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。