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眠れ、大罪人よ  作者: ノーム
4/12

第1フェイズ

 ひとつの景色が見える。

 それはいまにも沈みそうで――そして重く……、打ちひしがれているようだ。


「――どうした」


 サングラスをかけた壮年の男が気にかけてくれたのか、そっと肩をたたき、脇には缶コーヒーを置いてくれる。


 ――犯行予告から、すでに9時間。時間帯からすれば陽が差し込み、夜が明けるのだが、あいにく昨日から変わらず吹雪いている

 普段の時間帯であれば、閑静な地であり人の行き来も少ないことから、もの静かで、岬からの荒い波音が響くのだろう。

 そんな地で、周りが騒然とするような状況が訪れるとは誰も思わなかったはずだ。


 避難している住民からは極度に疲れた表情が読み取れる。

 ――もちろん、避難者だけではない。


 現地に駆け付けた警察・自衛隊も寝ずに警戒・テロリストたちへの交渉を投げかけている。時折、彼らの口から愚痴・弱音がこぼれるのを耳にする。『……死にたくない』と。


 誰だって、そうだ。


 彼らはいつ爆破されるか分からない放射能の中心地におり、絶えず怯えながらも自分自身の使命を果たすべく、その場に踏みとどまっているのだ。

 ――彼らに近く接する分だけ、彼らの立ち位置、逃げること叶わない心情、その苦しさがより鮮明に分かってしまう。

 それを分かった時、どうしようもなく心苦しいし、助けたいと思う。

 そして、思う。ことを引き起こしたテロリストたちが如何に勝手であるかを。彼らにより日常が壊され、いまも……そして未来においても恐怖を与え続けている。


 けど、それを打破する力がなく、いまの自分にはただただ自分に任せられている事を行うしかできないことに無力さを感じ、憤り……、うなだれている。


「いまの現場を伝える仕事も立派なものさ。おれらがいなければ、彼らの苦しさ、困窮、恐怖は誰も理解してくれない。そして、なによりおれたちもこの現場に文字通り命を懸け留まっている。――それだけでも十分じゃないか」


 ジャーナリストは事実を伝える――対象者・物に、より近く接し、彼らを理解し、それを外部へ発信する者。

 情報を伝える――より現場の目線で、いま何が起こっているのか、必要なのか……、より真実に立ち会い、それを伝える仕事を求め、この職に就いた。


 たしかに、やりがいは感じる……。でも、現場で困っている人に何かしら手助けできないのは、実に心苦しい。そして、……物足りなさを感じる。


 だからこそ、心の引っかかり・空白をなくすために、できる限り現場の状況、そして打破にあたっての情報を伝えている。




 しかし、現実はそう甘くないことを痛感させられる。


 国会議事堂で開かれている臨時国会では、いまだテロリストたちからの要求に対する議論に決着はついていない。なかには長引く議論のなかで居眠りする者も見受けられる。

 そして、これまで国策として敷いたエネルギー転換、原発の導入は誤りであったこと、いまだに原発を継続運転させている事実は問題ではないか、と野党は与党へ続けざまに非難を続け、それに対し弁論を与党が繰り広げる様へ、いつのまにか議題が流れていく。


 ――議論すべき焦点はそこではない。避難者の受け入れ先・避難所の確保、物資の供給が優先されるべきだ。


 現地で働く最前線の者たちが国会で審議している様子を見れば、呆れる光景であり、力を落とすことになるだろう。……いや、怒りに狂い、暴動が起こるといっても過言ではない。


 そして思う。個人的には内心引っかかりはするものの、テロリストからの要求に対しては幾分か呑むべきだと。

 現在の日本国会議員の年間平均年収は手当抜きで2,200万円。これは他国からみても高い。例に、米国では174,000ドル。円に換算すれば、約1,860万円だ。


 ……彼らの働きにしては高すぎると思えてしまうのは自分だけか。


 なにより思うのは、この日本において、約3倍ほどの人口を抱える米国より議員数は抜きんでているのだ。特に比例選挙区という民意の反映されにくいものについては、一刻も早く辞すべきだ。


 さらにこれまでの国内報道を省みて思うのは、中国に関係する負のニュースが他国に比べあまり報道されていない心象を受ける。……気のせいだろうか。


 ため息をつき、視線をあげ、現場を警戒する自衛隊員をみる。


 ――震えている。


 現場の冷え込みか、それとも……


 なんにせよ、いまの自分の目に映る人々が少しでも早く報われてほしいと思う。


 そうして、ひとつひとつ思案しては考えを深めているうちに、徹夜からの疲労からか眠気が誘い、意識を手放してしまうのだった――


 それからしばらく――


 放射能の影響が及ぶとされる地域周辺では交通網が大きく乱れ、混乱している。

 また避難者の受け入れ、物資の供給が即座に必要になる状況にも関わらず、政府は率先して動こうとしない。


 それにしびれを切らした都道府県知事なり名乗りを上げた者たちが目先の火急的業務を自主的に引き受け、対応していった。


 これらの事実が、ところどころで報道され、『テロリストが悪』という世論から徐々に『国への不信』へと重きがシフトしていくことになった。


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