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眠れ、大罪人よ  作者: ノーム
11/12

閉幕

 棟の最上階に到達し、室内へ繋がるドアを見ると、またも半開きしている。


 ――誘っているのか……。


 ……っ。室内は暗く、扉付近からは視認できない。


 覚悟を決め、銃を構え警戒しつつ室内に入り込む。


 室内はやはり暗く、側面のガラスから時折差し込む月明りだけが頼りだ。


 !!


 前方右手方向に物影――人影があることを視認し、思わずハンドガンを握る力が強くなる。


 外から照らす光では相手の顔まで確認できないが、この状況下でひとり佇んでいるところをみると、人質ではない。……テロリストのうち、幹部もしくはそれらを率いている者。


「あんたが今回の事件を引き起こした首謀者か」


「――ふっ、問いただすまでもない」


 相手がこちら側に向き、声を発する。


 ――声、月明かりから浮かぶシルエットから察するに30代……いや20代中盤といったところか。


 ……ただひとつ気掛かりがある。銃を向けられても動じる素振りを見せず、そして発せられた声があまりにも平坦すぎる。


 ――民間人ではないな。こちら側の人間か……。


「人質をどこへやった」


「彼らにはここから東に位置する別棟に移動してもらっている。――彼らは全員無事だ」


「なぜ罠も張らず、俺をここに招き入れた」


「――単に興味深かったからだ。敵地に一人で潜り込み、敵兵の視線を潜り抜け、見事任務――役割を完遂した英雄(あなた)に」


 ……役割だと。


「生憎、おれはあんたに興味がない。特に人命を軽視する輩はなおさらだ」


「ふっ、違いない」


 相手は背を向け、向こう側へ歩き出す。


「我々――私も最初から武力に訴えかけるような手法は取らなかった。……あなたは最近行われた大阪の都構想計画について、知っているか」


 コツ、コツと踵を鳴らす音が室内に響き渡る。


「行政サービスの効率化――県・市における議員間の思惑による衝突を防ぎ円滑なサービスの提供、そして不要な支出を防ぐことを目的としたもので、その審議を住民に委ねた大きいイベントがあった。……結果は周知のとおり、敗北したが。

 それがただの民意による敗北であれば、仕方がないと納得せざるを得なかったが、投票数時間前に起こったメディアの――誤ったとは言っているがタイミング的に意図したと思われる放送、そして思想・公約も異なる政党らが現地に複数人動員させる事態があった……」


「……」


「それ以外にも幾度と働きかけを行ってきたが、ことごとく彼らによりもみ消されている。――そのほか直近ではコロナによる騒動、今回のテロ対応……、そして親中派に関わることは、ここであえて語る必要もないだろう」


「……それがあんたたちの動機か」


「そうだな――」


「残念ながら、あんたたちの悲願は叶いそうにないな。ここで(つい)える」


 政府からは声明に対する正式な回答が為されているわけではないが、国会で審議している様子から察するにそれはないだろう。




 ――突如と、静寂が訪れる。


 側面のガラスからは、雲が抜けたのか、月明かりが差し込み、二人を照らしだす。


「たしかに要求が呑まれることはないだろう。――だが、今回の我々の目的は既に達せられている。米国大統領が全世界に向けた発言によって」


 ……やはり世論形成を目的にしたテロだったか


「――私はなにも力づくで世直しをしようとは思っていない。彼を広告塔に見立て、それを全世界に発信し、いまの日本の内部事情を晒した上で外部圧力を引き金に、内部の自浄作用を狙ったのが今回の真の目的……。そして、それを為すには今しかなかった」


 米国大統領が肝であったのなら、いまのタイミングでしかないことは分かる……。選挙によりほぼ確定した次期大統領は彼とは違い、鳴りを潜めている印象を受ける。また親中派であることも聞くが……。


「だが、今回のテロにより被害を被っている人質含め、現地にいた人たちにとっては堪ったものではないな。おまえたちの行為は、理由はどうあれ決して褒められたものではない」


「――その通りだ。彼らには申し訳ないと思っている」


 これまでの会話のなかで、唯一感情のこもった一言に聞こえる……。




「――あとはこの打ちあがった舞台をどう締めくくるべきか、だが……」


 こちらに向き直りつつ、懐から拳銃を取り出し、構える。


「なんの真似だ」


「人生の一生を価値づける瞬間は最後の締めくくりにある。……けじめをつける必要もある。――そして演目はすでに終盤。最後の閉幕は互いに認め合った者通し、天に召されよう」


「往生際の悪いやつだ。生憎、俺は死ぬつもりはない」


 互いに銃を構え、緊迫した空気が場を支配する。

 30秒――1分ほど経過しただろうか。


「――私はたたかう姿勢こそが人の……本来のあるべき姿だと思っている。本人に、良心に逆らうことのない確固たる信念があり、それを曲げず、差し迫る苦痛・困難に直面しても……たとえ恥を晒す局面に置かれてもなお、それを通し抜く姿勢に人は感動を覚えるものだと考えている」


「哲学に興味はない」


「では、あなたは何のためここでまで来れたのか。―― 一人敵地に送り込まれ、極限の緊迫した状況下に置かれてもなお、たたかい続けることができたのか」


「俺は……、明日を生きるために生きている」


「答えにはなってはいないな。――では聞くが、何のために明日を生きる。家族か、恋人か、それとも自分自身を慕ってくれる人たちのためか」


 ――親しい間柄の者はいない。


 では、俺は何のためにここまで来れたのか。それは紛れもない任務達成のためだが……。

 ――己を突き動かしてきたのは、日常では感じきれない充足感がそうさせたのか……いいや、断じて違う。


「……」


「答えは出ないか……。これから凱旋を迎える者に陰りがあるのはふさわしくないな――。

 あなたには与えられた役割がある。そして、それを演じきるにはそれと相反する役者が引き続き必要なのだろう」


 相手は引き金にかけた人差し指を離し、銃を床に落とす。


「私の選択すべき未来は決まった――最後まで彼らに抗い続けることこそが、正解なのだろう」


「――ひとつ頼みがある」


「なんだ」


「私以外の蜂起したメンバーの処遇について、少しでも減刑になるよう取り計らってもらいたい。彼らは武装解除した状態で、いま人質と同じ場所に留まっている」


「俺からもひとつ聞く。今回の蜂起は、あんたたち個人が引き起こしたものなのか」


「中国に敵対心を持つ者は数多く多い。自国、日本に限らず全世界……もちろんあなたの国においても。――私から言える言葉はここまでだ」




 ――こうして、極度の緊張状態が続いた長い一日は終えるのだった。


あと1話投稿して終わりです。

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