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第4話

王子がそうやって声を張り上げても、広間には歓迎というより動揺と困惑の雰囲気が漂っていた。どうやら、このようなからかいや新人いじめが特段に流行っているわけではないらしく、本当にヨハン王子の突飛な行動のようだった。


「歌ってよ」


緊張で身体が強張っているエリーザに、ヨハン王子は囁きかけた。

わたしはヨハン王子を見上げるけれど、全身が震えて声が出ない。


ここで歌わなければサヴァツキ家の名声が地に落ちてしまう。頭では分かっているのに、というか、頭でそれが分かっているからこそ、呼吸が早く細かくなって、声なんて出そうもなかった。


「自信を持って。廊下で聞いた歌声、綺麗だったよ」


王子はそう囁いて、そう囁きながら、エリーザの両肩にその手を柔らかく乗せる。

その行動に、ホールにはどよめきが走った。


けれども、そんなどよめきよりも、エリーザには肩に乗せられた手から伝わってくる温かさのほうが強く感じられた。王子というのは本当に、不思議な力を持っているのかもしれない。


顔を上げて、息を吸って、エリーザは歌い始めた。

選んだのは、絶対に外さない王宮で流行している恋歌。

楽器の伴奏もついてきて、歌唱にも熱がこもる。


歌い終わると、エリーザはようやく自分本来の意識を取り戻した。

周囲を取り囲む人々の顔もはっきりと認識できる。


お調子者の男性貴族が過剰な仕草と言葉でエリーザの歌声を褒め称えていた。

それにつられて他の貴族たちの表情も綻びだす。


なんとかやりきった、そんな安堵がエリーザの胸にじんと広がっていく。


「そんな歌じゃなくてさ、廊下で歌ってたやつ、あるじゃん」


そんなエリーザに向かって、不満そうな顔を向けていたのがヨハン王子だった。


「誰も知らない曲ですよ」

「俺はもう知ってる。いい歌だよ」


ヨハン王子の優美な笑顔には、それは外見上とても優美な笑顔なのに、有無を言わせない迫力があった。天井から吊られたシャンデリアでは蝋燭が明々と燃えていて、王子を後光のように照らしている。


エリーザは王子から目を逸らし、正面を向いて瞳を閉じた。


周囲からは騒めきが消え、瞳を閉じていても自分に注目が集まっているのが分かる。


エリーザが歌ったのは、王国の威光と豊かな自然を称える歌だった。


ゆったりとした旋律でその豊穣な国土を表現したあと、物々しい転調があり、騎士団の勇猛な戦いぶりが質実な曲調で力強く表現される。最後には郷愁を誘う歌詞が高音域で歌いあげられ、美しい余韻を残して歌は終わる。この部分は戦地から故郷へと帰還する騎士団を想定している。

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