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復讐探偵の誕生

 私は、中央警察署の捜査第3課刑事・桐島かすみ。ちなみに、独身だ。そして今は、昨夜盗みが入ったというとある家に現場検証に来ている。

「かすみ、ここの家主は10年前まで中央警察署の警視監だった。」

 この男は、私の上司・佐藤敬夫だ。そこまで腕の良い警察官でもなければ、特別頭がキレるわけでもない。

そして、ここの家主は10年前に警視監だった坂本哲治という男性らしい。

「この家に入った泥棒は、金目のものは何一つ盗んでいない。しかも、家主は何も盗まれたものはないと言い張っている。」

「じゃあ、何で通報されたんですか?何も盗まれてないなら、本当に泥棒が入ったかもわかりませんよ。」

「通報をしたのは、奥さんらしい。リビングの窓の鍵が開けられていてガラスに小さな穴が空いているのを見つけて通報したそうだ。」

 今回の窃盗事件には、不可解な点が多すぎた。そして特に不審なのは、金目のものは全く盗まれていない上に、それ以外にも全く盗まれたものがないと家主が言い張っていることだ。本当に何も盗まれていないのだろうか。となると、何のために泥棒に入ったのか。とにかく今回の窃盗事件はわからないところばかりだ。

 捜査も行き詰まり窃盗を専門としているという探偵に今回の事件も依頼するらしい。私は、初めて会うのだが一体どんな探偵なのだろうか。



窃盗事件であれば、どんな事件でも依頼を受け解決してきたという探偵・月城光。三課が窃盗犯を見つけられなかった事件でも難なく解決してしまう、所謂名探偵らしい。しかし、三課の中でも彼の姿を見たことあるのはほんの数名だという。

 そして、その探偵が今私の目の前にいる。

「何も盗らない窃盗事件が起きたと?そして、それを僕に依頼しに来たわけですね、佐藤さん。」

「あぁ、そうだ。」

「それはそうと、あなたは?」

「あ、私は捜査三課刑事の桐島かすみです。今回の窃盗事件の担当者です。」

と、軽く自己紹介をしていると突然携帯に着信が入った。

「すみません。少し外します。」

と言って、私は探偵事務所の外に出た。

「ところで、佐藤さん。さっきの窃盗事件の話ですが、ひとつよろしいでしょうか。何も盗まないのに、どうしてその窃盗犯は自宅に侵入したと思いますか?しかも、わざわざ元警視監の自宅に。」

「それは、自分の力を見せつけたかったとか…?」

「そんなことだから、いつまで経っても出世できないんですよ。」

「なんだと!?」

「何も盗まないのに、家主にも捕まるかもしれないわざわざ元警視監の家に入る馬鹿がどこにいるんですか。盗むのは金目のものだけとは限りませんよ。そして、家主が何も盗まれていないと言い張っているのは、バレると不味いものを盗まれたと考えるのが普通です。しかも、元警視監である自分が持っていると警察にバレると困るもの、とか。」

 私は、電話を終えて事務所に急いで戻ってきた。

「佐藤さん、大変です。別の窃盗事件が起きて現場に来い、とのことです。」

「そうか、わかった。光、その窃盗の件頼むわ。」

「いえ、私も行きます。」



 結局、着いてきた月城光。本当にこんな奴が三課の中でも噂されているあの名探偵なのか、私は疑問だった。現場に向かっている車の中、一言も発することなくただヘッドホンで音楽を聴いている。

「佐藤さん、月城さんっていつもこんなんなんですか?」

「こんなんって?ヘッドホンのことか?」

「はい。現場に行くのに情報を何も聞かずに、ずっと音楽聴いてますよ。」

「ほっとけ。あれは、光が現場を見る前にするルーティンみたいなものだ。」

「だからって、情報ぐらい知っとかないと。」

「光の頭には、今まで自分で解決した事件だけじゃなく、過去の窃盗事件のほとんどの侵入方法や手口が入ってるんだ。だから、情報なんて聞かなくても現場を見るだけで大抵の事件は解決してしまうんだ。熟練の空き巣や泥棒ほど、同じ手口で侵入するからな。」

「自分が解決した事件以外の事件もって…何者なんですか。あの人。」

「あまり深入りしない方が良い。昔はあんな奴じゃなかったんだがな…」

 そんな話をしていると、現場に到着した。月城光の過去に何かあったのだろうか…佐藤さんの言い方に少し引っ掛かったが今は仕事に集中しないといけない。



 現場検証の結果、月城光は一瞬で手口と過去の窃盗事件から窃盗犯が常習犯の松島大輝(42)であることを突き止めた。そして、最近の行動範囲を考えて、昼間に空き巣に入りそうな家を割り出し張り込んだ結果、現行犯逮捕に成功した。空き巣の場合、決定的な証拠でもない限り現行犯でないと逮捕できないのだ。

「これが窃盗専門名探偵・月城光ですか…噂通りの腕ですね。そういえば、月城さんの過去に何かあったんですか?」

「あぁ、その話か。聞きたいなら場所を変えよう。」

周りに聞かれるとそんなにまずいことなのか、私たちは駐車場に停めている車まで来た。

「光には、4つ離れた透という兄がいた。幼い頃に両親を亡くし、それから兄と2人だったんだが、俺がよく面倒を見てやってたんだ。光は、透のことが本当に大好きで透がどこに行ってもべったりついているぐらいだった。」

「そんなにお兄さんのことが好きなんですね。でも、そんな人に甘えるような感じはありませんでしたけど。」

「そうだな。昔はよく笑ったし、俺にもよく懐いていた。よく3人で外食に連れて行ったり、遊びに行ったりしていた。でも、10年前透が死んだ。それから光は、人が変わったように笑わなくなった。」

「そうだったんですね。どうして、お兄さんは亡くなられたんですか?」

「死刑だ。でも、透は何もしていない。光も俺も透は無罪だと思っている、今も昔も。」

「それって、つまり…」

「冤罪だ。光からしてみれば、警察に兄を殺されたようなもんだろうな…だから、警察のことはあまりよく思っていないし、依頼を警察から受けるのは俺からの依頼だけだ。」

「だから、三課の中でも月城さんを見たことある人が少ないんですね。」



 佐藤から事件を解決したという報告を月城。自宅のソファーに腰掛け資料を読んでいる。その資料は、本来月城が手にすることは決してありえないものだった。資料の中には、5人の名前が記されている。そして、その中につい最近窃盗事件にあった坂本哲治の名前もあった。10年前のとある事件に関する資料だ。その資料と一緒に、その犯人として死刑になった月城透に関する資料もある。そして、その事件が冤罪であったことを証明する決定的な証拠である。

「兄さん、やっと見つけたよ。ここまで10年かかった。やっとあの時兄さんをはめた奴らの1人を見つけて、他の4人もわかった。あとは、他の4人からもこの資料を盗むだけだ。」

そう言って、資料を机に置く月城。

 彼の表向きの顔は、三課の中でも噂されるほどの名探偵だが、その裏で10年前の兄を死に追いやった事件の真相を調べていたのだ。そして、10年経った今計画を実行に移そうとしている。その最初の一歩が今回の元警視監家の窃盗だったのだ。あらゆる侵入手口と過去の窃盗事件の詳細を記憶している月城は、現場に全くの証拠も残さなかった。それゆえに、誰も月城が犯人だと気づくことはなかった。それは、過去の探偵の経験から生み出した月城光だからこそできた窃盗事件だったのだ。

「絶対復讐してやる。だから、待っててね。兄さん。」

兄の冤罪の真相を解き明かし、復讐を誓った月城光。探偵でありながら、復讐を誓う彼は、復讐探偵である。

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