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第4話 自己紹介

 私は、ぼんやりと外の景色を眺めていた。この国には、桜がなくて、入学式とはいっても、華やかさが足りなくて寂しい気がする。

 そんな事を考えていると、


「ほら、みんな席に座れー」


 パンパンと手が叩かれた音がして、少し間延びした声が教室に響いた。バラバラと立っていた生徒達が椅子に座っていく。

 教室の入り口に目を向けると、名簿を手にした一人の男性教師がいた。


 年は三十代前半ぐらい。寝癖を直していないボサボサの髪に、死んだ魚のようなどんよりとした目、それに、皺がよってヨレヨレになった白衣を羽織っている。

 あまり清潔さというものを感じられないが、髭があまり濃くないのがせめてもの救いだろうか。


 やる気がなさそうにゆっくりと、教壇の前まで歩いてき、教壇に両手をつくと話し出した。


 「えーと。これから一年間君たちの担任をするエドワード・ローラントだ。エドワードだと長いから適当にエド先生とでも略して呼んでくれ。

 基本、授業以外のクラスの運営に関しては、面倒くさいから口を出さないから自分たちで好きにやりな。俺からは以上だ。


 ああ、そうだ。忘れていた。これは学校からやれと言われているから、仕方ないけど、順番に自己紹介していってくれ。

 じゃあ、廊下の一番後ろに座っているお前から。はい、どうぞ」


 面倒くさそうに、男子生徒のことを指差した。


 指名された男子生徒は目をキョロキョロと泳がせながら怖ず怖ずと立ち上がった。

 そりゃあ、あんな適当な自己紹介の後はやりにくい。自分だったら絶対にやりたくない。


 さて、私はどんな風に自己紹介をすればいいだろうか。あまりクラスの下手に関わって、私の寿命が縮まっても困る。

 「みんなのアイドル、セシリア・ストラウスだよ。よろしくね。」とか、こっぱずかしい自己紹介でもすればクラスメイトから遠巻きにされて、彼らと関わらなくても良いんじゃないか……。

 と、考えてみたものの、私のメンタルは豆腐以上、ナマコ以下の強度しかない。

 絶対に人前でそんな事をすれば、家に帰ってすぐにベッドに潜り込んで、その中で、恥ずかしさで身がもだえるに決まっている。


 無難な自己紹介を終えて男子生徒は席についた。ほぉー。彼は、アルミン・ヒバートという名前なのか。まぁ名字を聞いても彼がどこの家の者か分からないのだけれど……。

 それは追々おぼえていくとして、自己紹介は淡々と進んで行く。ふと窓際の壁にもたれかかっているエド先生の様子を見ると、あくびをかみ殺していた。


 ちょっと、まだ十人も終わっていないんだから、この調子だと最後の人に回ってくる頃には、夢の世界の住人になってしまうだろう。

 私としては、もう顔を名前もおそらく全員に割れているだろうからわざわざ自己紹介もする必要もない気がするけれども……。


 ようやく自分の番が回ってきた。私はスッと椅子から立ち上がった。


 「セシリア・ストラウスです。よろしくお願いします」


小さくお辞儀をして座った。誰か、「もう知っているよ!」とか誰か、突っ込んでくる人がいるかもしれないと思っていたのに、誰もいないなんて少し残念だ。せっかく返しの一つや二つ、考えていたというのに。


 全員の自己紹介が終わると、エド先生は窓際から離れて全員に紙を配り始めた。


 「何も印が付いていないのが、全員が取らなきゃ行けない必修の科目だ。それと、丸印が付いてるものから自分が受けたい科目を最低でも三つを選んで、三日後までに提出しろ。以上だ。はい、解散。」


 それだけを言うとエド先生は教室から出て行くと、二人の女子生徒が近付いてきた。私が勝手に取り巻きAとBと呼んでいた生徒だ。

 自己紹介でやっと名前が分かった。背の高い方がシャーリー・ヘンウッドで、ぽっちゃりとした方がジャスミン・プロバートという名前だ。


 私たちは教室を出て廊下を歩いて行く。


 「セシリア様がいるのにあんな担任を寄越すなんて、この学園は何を考えているのかしら?」


 「そうですよ。セシリア様、一回、学園長に言った方がよろしいのでは?」


 私が何も言っていないのに話しがドンドンと進んで行く。

 そんな様子を見て、もしかしたら、ゲームの中の私はこうやって彼女達にのせられて、主人公を虐めるようになったのかもしれないと、思ってしまった。



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