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第2話 入学式

馬車から降りると私はすぐにアレンから逃れようと、鞄を抱えて駆け出そうとした。


「へぐぅ」


 アレンに制服の襟首を掴まれて変な声がでた。何も言わずに掴んでくるなんて文句の一つでも言いたくる。


「ちょっと何するのよ!」


キッと睨んでアレンの方を振り返った。けれど、アレンは私の顔に怯えることもなく、やれやれといった風に言った。


「セシリア、入学式がどこでやるのか分かっているのか?」


私はウンウンと首を振った。

案外、アレンは悪いやつじゃないのかもしれない。面倒だ、嫌だとか愚痴を吐きつつ、私の事を気にかけている。だけど、どこかぶっきらぼうというか、

めんどくさがりというか……。


 「やっぱり、知らなかったのか。予定表が配られているのを読んでいないのか? セシリアのことだから、読んでいないよな」


 私が返事をする前に勝手に結論づけやがった。やっぱりこいつは、腹が立つやつだ。一瞬でも、いい人かもしれないと思ってしまった私の観察眼が憎い。

 けれど、実際、昨日とかにその予定表を読んでいたとしても、今の私は、どこで入学式が執り行われるのか知らないわけだし、反論する余地はない。

 

 「講堂だってよ。ほら行くぞ」


 私は、アレンに連れられて、入学式に出席するために講堂へと向った。







 講堂の中に置かれた、席の八割方はもう既に埋まっていて、ちらほらと飛びちびに空席があるぐらいの状況だった。


 アレンは私を連れてドンドンと前にある席に進んで行く。


 「私、もっと後ろの方が良いんだけれど……」

 

 「何を言っているんだ? ほら、あそこがセシリアの席だぞ」


 「え?」


 アレンが指差さした席を見た私は、それだけを言って固まった。

 その席は、他の椅子とは違って、後ろに座った人が前が見えないんじゃないかと思うほどクジャクの羽みたいに、背もたれに色とりどりの飾りが付けられている。それよりも、あまりにも派手すぎて、華やか~というより、毒々しい印象がする。


 「私、あんなビップ待遇なんてゴメンよ。早く、みんなと同じ椅子に代えてもらって」


 「派手な椅子じゃなきゃ嫌だと、セシリアが言ったから用意したと聞いたけれどね」


 バカだ。ゲームの中の私は相当のバカだ。

 おそらく、入学式に出たくないがために、無理難題をふっかければ、出なくて済むんじゃないかという浅はかな考えで、派手な椅子を頼んだのに違いない。断じて、目立ちたかったからではないと信じたい。

 だけど、王女のチンケなわがままなんて、こうも簡単に叶えられてしまったのだ。


ハァと大きなため息をついて、私はその椅子に座ることにした。ここでギャギャビービー騒いだ方が余計に目立つ。横の開いていた席にはもちろん、アレンが座る。


しばらくして式が始まって、鼻くそをクルクルと丸めて投げつけたくなるぐらいのどうでもいい、話が永遠と続いていく。学園長の子どもの頃の昔話なんてどうでもいいと思っている新入生が大半なはずだ。


「新入生代表挨拶。エドワード・ダレル君」


そう声が響いて、壇上に一人の男子生徒が登った。その顔を見て、私の肩はびくっとなった。

 彼の顔はイケメンだった。整った鼻筋に大きな目。他の人の尺度ではどうかしれないが、少なくとも私の基準ではイケメンだ。


主人公の攻略対象。地獄からの使者。にっこり笑った姿が悪魔。私にはそうとしか見えなかった。


 彼との接触は避けなくてはいけない。だけど、学校という狭い空間でそれは可能なのか?

 ひょんなことから関わりを持ってしまうかもしれない。それはすなわち、私の首が飛ぶことにつながる。


 ここで、私はいい考えが浮かんだ。


 エドワードが主人公にモテる要素は「頭の良さ」なのだ。だからそれを私が奪ってしまえば、彼は主人公にモテなくなる。

 つまり、私が学業の成績を一位を取れば、エドワードの主人公にモテる要素がなくなって、私の断罪への道が回避されるかもしれないというわけだ。

 けれど、今の私の学力がどれ程のものなのかおぼえていない。

 私は、隣に座っているアレンに小声で尋ねた。


 「ねぇ、アレン。私の入試の成績って知っている?」


 アレンは少し怪訝そうな顔をした。

 

 「三百人中、下から数えて三番目」

 

 私は正真正銘のバカだったらしい。王女のくせになぜに勉強ができないんだ? 優秀な家庭教師とかついていないのだろうか。


 「そんなことを聞いてどうする気だ。セシリアはずっと勉強なんて興味がなかっただろう? それより、成績なんて気にするなんて変なものでも食べたか?」


 失礼な。一般人だって、急に真面目になりたくなる時だってあるんだから、高貴な王女である私ならそんなことはなおさらよ。オホホホ……。

 と、口に出したら恥ずかしさで身をもだえて、七転八倒するのが目に見えるセリフを心の中だけで、言ってみた。もちろん、口に出すのは別の言葉だ。


「別に、良いじゃない。少し気になっただけよ」

 

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