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第1話 プロローグ

 軽くウェーブがかかった母親譲りの金色の長い髪。それに釣り上がった目に、気が強そうにきつくきゅっと結んだ口元。

 まだ十一才だというのに子どもらしい可愛らしさから、かけ離れた自分の顔が映り込んだ鏡を見つめて、私は何度目か分からないため息を吐いた。何度見返しても、その顔が変わることはない。


 今の私の姿は、セシリア・ストラウス。とある乙女ゲームの中に出てくる悪役の王女と、うり二つなのだ。

どうして、今の私はセシリアになっているのだろうか。確か、私はさっきまで横断歩道を渡っていたはずなのに……。

その時の様子をはっきりと思い出そうとしたけど、頭がズキズキと痛んで全く思い出すことができない。


まぁ、そんなことは、今考えている余裕がない。問題は、今の私が乙女ゲームの悪役に生まれ変わっていることだ。

 普通なら、自分がよくプレイしていてゲームに転生して、ゲームの主人公やら、攻略対象の男共と関わらないようにしようとするが……。


 残念なことに私は、このゲームで遊んだことがない。

 つまり、誰が主人公で、誰が攻略対象なのか、私にはさっぱり分からないのだ。


でもどうして、今の私が悪役に生まれ変わっていることを分かったのは、全て妹のおかげである。

妹は、ことあるごとに私の部屋にやってきて、セシリアの極悪非道ぶりを、永遠としゃべり続けていた。


 最初は真面目に聞いていた私も、途中から面倒くさくなって、ふーんとか、へぇーとか気のない生返事を繰り返していたけれど、妹はそれで満足して、また自分の部屋に戻っていった。

 今思えば、もう少し、妹の話を真面目に聞いていれば良かったと思わずにはいられない。


 だけど一つ強烈に覚えていることがある。


 この悪役にハッピーエンドは訪れないことを。


 主人公を虐めまくり、王女という立場を利用して、気にくわない人達を追放しまくった私は、最後は良くて国外に追放されるか、悪いと私の首が物理的に飛んでしまう。


 どうして、もっとましなエンドがないのか。私は思わず、グッと手に力を入れた。


すると、突然、バッキと嫌な音が部屋の中に響いた。何やら嫌な予感がしてふと手元に目線を落とすと、手に持っていた手鏡の柄が粉々になって掌からハラハラと床に落ちていった。


「うん?」


 思わず間抜けな声が出た。普通の乙女にこんな力はないはずだ。

そして私は、妹が言っていたことをもう一つ思い出した。


そう言えば、この乙女ゲームはおまけとして、バトルゲームも備わっていると妹が言っていた。

確か、主人公と攻略対象の好感度によって攻略対象の攻撃力が変化する仕組みだったはずだ。

そして、そのバトルゲームのラスボスとして登場するのがこの私、セシリア・ストラウスというわけだ。


ただ、攻略対象と主人公が魔法で攻撃するのに対して、私は何故か、素手か剣で戦うのである。飛び道具対剣である。まぁ、まず勝てない。

 なんでそんな設定したのか、制作者に文句の一つでも言いたいけれど、所詮、乙女ゲームのおまけのゲームである。


 ゲームならそれで良いかもしれないけれども、現実としてなら受け入れられない。


 下手に、攻略対象や主人公と関わってしまったら、私の命が危ない。誰がそうか分からないなら、取るべき方法は一つしかない。


そう、部屋に引き籠もる、それしかない。


そうすれば誰とも会わなくて済むし、私の安全が脅かされることもない。なんて良い方法を思いついてしまったんだろう。


そう思ったのもつかの間、


「セシリア様、そろそろ学校へ行く時間ですよ。」


とひょっこりと執事服に身を包んだ一人の青年が顔を出した。


「ハァ?」


 乙女らしかぬ低い声が出てしまった。どうして、王女が学校に行かなくちゃならないのだろうか?

 せっかく、私の身を守る良い方法を思い着いたというのに……。


「いやだ、いやだ。今日は学校休む。今日ぐらいいいでしょ。」


 私は童心に返って、ベッドのシーツにしがみついて駄々をこねたが、強引に引っ剥がされて、制服に着替えさせられ、廊下をドナドナと引きずられていった。


「何を言っているんですか? 今日は入学式の日なのですよ。休み癖がつくと出席日数が足りなくなって、留年だってあるのですよ。今日はちゃんと行ってもらいますからね。これはセシリア様のお父様からのご命令でもあるのですよ。」


「王女なんだから、それぐらいちょろまかすことできないの?」


「また勝手なことを……。学園は王立の由緒正しき学校なのですよ。王女が示しを付けなくてどうするのですか。」


私はずるずると王宮の外へと連れ出された。


「アレン様が馬車でお待ちですよ。」


 私は鞄を言われるがまま持たされ、いつの間にか門の前に止まっていた馬車の中に乗せられていた。










ガラガラと馬車が通りを進んで行く、私の正面に座った、制服に身を包んだアレンは、私が馬車に乗り込んでから一言も口を開いていない。

 こちらから話しかけようかと思ったが、アレンが攻略対象の人かもしれないと思うとうかつに話しけられない。

 ただ、ずっと黙っているのもだんだんと辛くなってきて、私は当たり障りのない言葉を言った。


 「今日は良い天気だね。」


 アレンはちらっと外を見て、不思議そうな顔をした。


 「外は曇っているけれどね。どうしたんだい急に?」


 どうしたって聞かれても特に理由もなく話しかけている。仕方ないのでさっきから気になっていた事を尋ねた。


 「そういえば、どうして朝から、私の事を待っていたの?」


 アレンは、はぁーと長くため息をつくと面倒くさそうに言った。


 「幼なじみのよしみで、セシリアのお世話係にされたのだよ……。」


私の耳は幼なじみという言葉にピクリと反応した。これは主人公の攻略対象の可能性が高い。

 大体、こういうのは、悪役と近しい人が攻略対象だったりするのだ。

 これは、アレンとこれ以上の関わりを持たない方がいいに決まっている。


 そう思っている内に、馬車が止まって、御者が「着きましたよ」と外から声をかけてきた。


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