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夏のホラー2019

幽霊になった私

作者: 索☆創

 フゥともハァとも聞こえる、萎んだ風船から抜ける最後の空気のような音が、私を育ててくれた、祖父のはなった最後の声だった。


 こんな事を思い出すのは私が祖父と同じ立場になったからだった。


 ーーー余命三ヶ月。


 もうこの白い建物から私が帰る事はない。

 もうこの白い建物から私が帰る場所もない。



 五月、ゴールデンウィーク前だというのに真夏日だという暑い日、会社の用事で行った銀行を出た瞬間、私は倒れた。


 いきなりクラリと目眩がして気がついたら病院。


 キャンサーです。


 熱中症かと気楽に考えていた私に深刻そうな表情で告げた医者。


 キャンサー? と聞き返せば癌ですと日本語に訳してくれた。


 ガァン。


 ああ、このギャグを聞きたくないから英語で言ったのかと、何百回と聞いたであろう、目の前の医者に少々同情しつつ、入院、退社、住んでた家の始末。


 やる事をやってしまえば。


 もう、何も無い。


 暇になったら見ようと。

 録り貯めた番組も。

 積んどいた本も。


 何もかも家と一緒に処分してしまった。

 

 ぼんやりとテレビの画面を眺めても、何一つ私の内に入らない。


 少し前までは笑えた芸人さんも、美味しそうな料理も、心打つ映画も何もかも意味をなさない。


 意味といえば私のこの生に意味はあったのだろうか?


 結婚もせず、子供も作らず。


 他の何かをこの世に残すこともなく。


 世の中に迷惑をかけず。


 やりたい事はあきらめ。


 かなえたい願いは忘れて。


 毎日、毎週、毎年。

 

 同じ事を繰り返していた。


 幽霊の足が無いのは何処にも行かないため。


 幽霊の手がだらりと垂れてるのは何も掴まないため。


 ああ、そうか。


 私はとっくに幽霊だったのか。


 祖父と同じ病院に入院したのは運命か。


 杖、歩行器、車椅子、寝たきり。


 刻々と近づく終わりに抗うでもなく。


 祖父が見上げていたであろう天井を見上げて。


 祖父がつけていたのよりは新しい人工呼吸機をつけつつ。


 ぼんやりとすごせば。


 あとは唯一の肉親の弟を来るのを待つだけ。


 弟がきたら外される人工呼吸機の。


 外した時のフゥともハァともつかない音は。


 今の気持ちにピッタリだと私は動かない口角を少しあげ。


 ドタドタと聞き覚えのある。

 

 足音が近づいてくるのを聞いた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様です。ありがとうございます。あなたから笑顔を受け取って、ほっとした人もいるのでしょうね。
2019/08/29 07:10 退会済み
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