抜けない魔草
僕は恐る恐る魔草へと手を伸ばした。
その横で老人と少女は、するっするっとなんでもないように魔草を抜き続けている。
(こんな幼い少女ができることなのに、僕は何をそんなにビクビクしてるんだ。情けない)
僕は意を決して、目の前の魔草を引き抜こうとした、が、どれだけ力を入れても引き抜くことができなかった。
(アレっ?全然引き抜けないぞ?)
「あの〜…、これ全然引き抜けないんですけど…?」
僕は少女に助けを求めた。
「えっ?大丈夫だと思いますけど。」
と言って、少女はその魔草を軽々と引き抜いた。
「ほんと…ですね…。なんで引き抜けないんだろ…?」
今度は、身体中の力を振り絞って草を引き抜こうとしてみた。
「ふんっっっ。」
でも、魔草は根と葉の境い目から千切れただけで、やっぱり上手く引き抜くことができなかった。
「ダメじゃ、ダメじゃ。それでは売り物にならんぞい。」
老人が様子に気づいて、声をかけてきた。
「力任せに引っ張ってもダメじゃ。魔草の根の気持ちを汲み取って、それを自分の身体感覚の波長に共振させるのじゃ。」
「はぁ…。」
老人の言っていることはサッパリ分からなかったけれど、力を入れずにやるということなのかなと思い、今度は力を入れずに引っ張った。
でもやっぱり魔草を抜くことはできなかった。
「まぁ、数をこなすことじゃ。そうすればおいおいコツも掴めてくるじゃろう。」
「はい…。」
僕はそれから色々な方法を試してみた。角度を変えてみたり、持ち方を変えてみたり、片手でやってみたり、もちろん魔草の根の気持ちを汲み取ってみたり…。
だけど、どれも上手くいかなかった。
(草を抜くだけなのにこんなに苦労するものなのか…?)
他の魔物だったらどうなるんだと考えると、僕は途方も無い無力感に襲われてしまった。
それからしばらく何もできず、魔草を持ったまま、ただぼーっとしていた。
しかし、いきなりこんなところでつまづくわけにはいかないと思い、とりあえず一旦落ち着こうと目を閉じて、深呼吸をしてみた。
その時、何かしら指先に感じるものがあることに気づいた。僕は身体の感覚を指先の一点に集中してみた。
僕は普段の生活で色んなものに触れる機会はあったけれど、その感触をしっかりと意識してみたことなど今までなかった。
さっき老人は「身体感覚の波長に共振させる」と言った。
よく意味の分からない言葉だけど、そんな事が出来るのだろうか?
僕はさらに指先へと意識を集中した。
それは初め、ただのしびれのようなものだった。やがてそれは震えのようなものになり、最後には僕の身体の感覚を激しく揺らした。
イメージなのか、音なのか、魂の記憶の集合体のような何かが、僕の感覚の中へとスッと入ってきた。
僕は目を閉じたまま、魔草を引き抜いてみた。
今までどんな事をやっても抜く事ができなかったのに、今度は何の力も入れる事なくスッと抜くことができた。
僕はその時初めて、老人が言っていた、あの意味不明な言葉が理解できたような気がした。
その意味をということではなく、自分自身の絶対的な感覚として。
魔草を抜くスピードは、2人には到底及ばなかったけれど、僕は何とか少しずつ魔草を採り進めた。
しかし、疲労が蓄積されていたのか、神経を集中することによる負担が大き過ぎたのか、僕はしばらくして突然気を失ってしまった。




