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高く上がれ!

風切っていこう  洸汰→瞳子

作者: 佐倉小春

高校一年生の木村洸汰が一目惚れした高校三年の瞳子に告白するお話。

高く上がれ! 洸汰→瞳子、瞳子→洸汰 の続編ですが、このお話単体で読んでも大丈夫です。

 俺、木村洸汰は高校に入学してすぐに二年上の先輩に一目惚れした。


 自分がこんな気持になるなんて中学のときには思わなかった。

 テニス一筋で、 -っていいながらもサボっても罪悪感の欠片も感じなかった- 異性に興味を持ったことはない。アイドルに可愛いなと思うことはあってもそれは現実味のない虚構の世界。


 本当に目を……心を奪われるってあるんだと知った。

 真っ直ぐにゴールを見つめて軽やかに走るその姿に一瞬で夢中になった。

 風を切って走る先輩はキレイだった。


 テニス部に勧誘されていたことも忘れてその場で陸上部に入部した。

 入部した後で、先輩の名前が木村瞳子(きむらとうこ)ということと、わが校の短距離期待の星であると知った。

 自覚はないようだが、キレイだし、成績も常に学年十番以内に入っている才女であり、二・三年生の間では結構な有名人であることも分かってきた。

 有名なのが品行方正なことだけが理由ではないと知ったのはずいぶん後のこと……


 小学生のころから硬式テニスをしていた俺は走るのが嫌いではない。毎日走ってたから長距離をぼ~っとしながら走るのが好きだった。学校のマラソン大会ではいつも1番か2番だった。自分に向いているのは長距離だな・・・と分かっているが、あえてここは短距離で!

 顧問の先生にかなり説得されたが、「短距離で!!」と押し切った。


 高校総体地区予選まであと2ヶ月。先輩と一緒に練習できるのはたった2ヶ月!それまでに俺のことをしっかり印象づけておかねば!!


 総体予選までの2ヶ月は出場選手優先の練習。と言っても一年生の一部以外はほとんど出場するので、いつもの練習とあまり変わらない。

 瞳子先輩の走る姿にほれぼれ見とれながら軽く流していると

「洸汰!!見とれすぎ!ちゃんと真面目にやれ!」

とマネージャーから注意を受ける。周りにいたみんなにお前バレバレだよなとからかわれ、走り終えた瞳子先輩も近寄って来て笑っている。

「一年生からかったら可愛そうよ!」

 その言葉が心にズシンと重しになる。

 

 一年生


 俺より背の高い瞳子先輩が優しい目線を落としてくる。そう、落として……

 これだよな。せめて俺のほうが背が高かったらもう少し本気にしてもらえたのかもしれないのに。みんな俺が瞳子先輩を好きだと知っている。ただ、それは憧れの延長で冗談だと思っている。

 そうじゃない!本気なのだといつになったら言えるのだろうか。

 

 悶々とした気持ちを抱きつつ過ごしていた時間の中で、一つの決意が生まれたのは地区予選が終わったあたりのこと。


 余裕のタイムで地区予選を突破した先輩は県予選に進む。県予選で一位になったら全国だ!

 全国の前、県予選が終わったら俺の気持ちを告白しようと決意した。


 眩しいくらいの快晴で迎えた県大会。仲間たちが予選敗退する中、瞳子先輩は予選を突破して決勝のレースに進んだ。

 みんなの期待を一身に受けての決勝だったが、残念ながら結果は0.5秒差の二位。

 苦笑いを浮かべながらみんなのところに帰ってきた先輩は「終わっちゃった」とつぶやいた。

 

 親が迎えに来るからという先輩だけが競技場に残り、みんな一緒に帰宅の途に付いた。でも、俺は何か気になるので寄るところがあるからと嘘をついて別行動を取ることにした。


 競技場の中では、みんなと別れたその場で瞳子先輩がうずくまって泣いていた。そんなに泣いては壊れてしまうのではないかと言うほどに泣いていた。でも、俺は何もできなかった。隠れて見守ることしか……


 しばらくして少し落ち着いてきたのか声が聞こえなくなってから、どうしても放っておけなくて声を掛けると、ビクッと方を震わせながらも俺の方に振り向いた。

 薄暗くなった競技場の中は俺たちの他には誰もいなくて、緊張感が高まり顔が引きつりそうだった。


「すみません、俺……こんなときにすみません、どうしても伝えたいことがあって」

 真っ直ぐに目を見た。迷わず行こう!!


「俺…瞳子先輩のことが好きです!」

 一瞬ビックリしたように目を見開いた後に、すぐいつもの表情に戻る。

「どうして今?」

 あ、冷静な反応……

 まっすぐ俺を見たまま、静かな声を発した。


「三年生はこれから勉強が忙しくなって俺のことなんて存在ごと忘れてしまうかもしれないし。それに‥…」

「それに?」

「他の先輩たちに瞳子先輩を取られたくなかったので」

 本心を言ってしまって恥ずかしくて視線をそらす。

 こんなかわいい先輩が今まで彼氏がいなかったのが不思議なくらいだよ。

  ため息をつきながら困ったようにはにかんだ。

「そんな心配は無用よ。同級生で私のことを好きになる男はいないわ。だけど、ごめん。今は彼氏はいらないの」


 断られることは想定内!!高校時代の二年って大きい。一年生の男子なんて子供っぽく思われても仕方ない。それより「今はいらない」って言った。今は……


「『今は!』ですか?」

「へ?」

「今はいらないけど、未来は分からないってことですよね!」


 自分の言葉が弾んでいるのを感じる。

 俺が先輩の思っている方向とは違う反応をしたのが可笑しかったのかくすっと笑って

「そうね、とりあえず、身長が私を抜かしたら考えてもいいわよ」


 あと一~二年したら俺ももっと背が伸びて、男度をアップさせていることだろう!


 先輩が俺の頭をポンポン叩いてくる。

 完全に年下扱いだよね……

 今は仕方がない。なんと言っても俺のほうが背も低いし、まだお子ちゃまだ。

「その言葉忘れないでくださいね!」


 ニヤッと笑った俺に先輩は親指を立てて返してくれた。












  


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