僕と君とつまらない日常
※
君は言った。
「つまらない」
「何が?」
「何もかも、全てが」
君はつまらなそうに、そう吐き捨てる。
単調な毎日。代わり映えのしない毎日。
学校へ来て、勉強したり、友達とおしゃべりしたり、それがつまらないと。
「刺激的な事、なんかないかなぁ」
溜息をつきながら、君は言った。
僕は考える。
――刺激的な事って、なんだろう?
僕には、君の言う『刺激的な事』が判らない。
それでも、考えた。君が言うから。君がつまらないと言うから。
※
その日は、いつもとは少し違っていた。
教室内では、そこかしこでソノコトについてで持ちきりだった。
ざわ。ざわ。
聞いたぁ~?
うん、さっき聞いたよぉ。マジ、ヤバイ。
マジなのかなぁ~。
マジっぽいよ。理科室、立ち入り禁止なってんじゃん。
ざわ。ざわ。
君は?君はどう思った?
「そんなに大騒ぎするほどでもないじゃん。つまんない。
カラスの死体が置いてあっただけでしょ」
アレでは刺激が足りない?
僕はまた考える。考える。
もっと刺激を・・・・・・。
次は切り刻んだカラスにした。
けれど、君の反応は変わらない。
次はもっと大きな動物。
その次はもっともっと・・・・・・。
僕は繰り返す。君がつまらなくなくなるまで。
ざわ。ざわ。
犯人誰よ。もう、悪戯じゃないよね。
酷い。動物が可哀相。
ざわ。ざわ。
周りの雑音なんてどうでもいい。
君は?君はつまらなくなくなった?
「くだらない。動物の首並べて、何が楽しいの?」
また僕は失敗したのか。
結構大変だったんだけどな。犬を捕まえて、首を切り落とすのって。
ほら、僕の腕に噛み付かれた痕が残っちゃった。
痛かったよ。10針も縫ったんだもの。
それに、続けるためには、僕が犯人だってバレたら駄目なんだよ?
それなのに、君ってば、ちっとも解ってくれないんだもの。
ざわ。ざわ。
ざわ。ざわ。
ああ、うるさい。雑音。
君の声が聞こえないじゃないか。
ああ、ああ、うるさい。うるさい。
消えろ。
ねぇ、君。
犬より大変だったよ。
結構、力入れないとね、切れないの。
切っている時は、一生懸命だったから判らなかったけど、駄目だね。
綺麗に切れなくて、ちょっとグチャグチャになっちゃった。
どうしようかな。こんなに汚いのは、君に見せる価値もないかな。
首は汚過ぎるから、手でいいかな?
何箇所か練習して、一番綺麗に切れたと思うんだよね。
失敗した所は、どうしようかな?
うーん、邪魔だから焼却炉へ捨てちゃおう。汚いしね。
ああ、楽しみだな。早く明日にならないかな。
正門が封鎖されて、生徒たちが返される。
折角、教室に置いたのに、入れないんじゃ君に見せられない。
ざわ。ざわ。
今度は何?
切られた手首が置いてあったんだって。
え!人の?バラバラ?
きゃー、殺人事件じゃん!
ねぇ、ねぇ、エミ見なかった?
えー、知らなーーい。来てないんじゃん?
ざわ。ざわ。
ねぇ、君。
今度は、間違ってないよね?つまんなくないよね?
「ふーん。マネキンの手とかなんじゃないの?」
やっぱり、手なんかじゃ駄目だったんだ・・・。
ごめんね。僕が綺麗に切れなかったから。失敗しちゃったから。
ごめんね。ちゃんと、もっと練習するよ。
もっと、もっと練習して、綺麗に切れるようにならなきゃね。
それまで、待っててくれる?ほんのちょっとの間だよ。
此間もね、首は失敗しちゃったけど、両足と手を順に切ってる間に少しコツを掴んだんだ。
だから、ほんのちょっと待っててね。
※
僕、頑張ったよ。いっぱい練習した。
納得がいくまで、何人も。何人も。
気が付いたんだ、大人だと、固すぎて切りづらい。
でも、小さい子でも、やわらか過ぎて、綺麗に切れないんだよね。
そう、その間。ちょうど、僕たちぐらいが一番、一番綺麗に切れるんだよ。
ああ、でもね。でも、素材探しが大変になっちゃったんだ。
この近隣の学校が全部、封鎖されちゃったじゃない?
みんな、家から出て来なくなっちゃってさ。
でも、安心して。
君の為ならば、僕はなんでもするよ。
だから、君の一番の親友のミキちゃんを素材にしても、怒らないでね。
すべては、君の為だから。
ほら、こんなに綺麗に切ってあげたんだもんね。怒らないよね?
ピンポーン。
宅配です。印鑑かサイン、お願いします。
「ん?なんだろ。あたし宛じゃん」
・・・・・・。
「いやあぁああああぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・」
ねぇ、君。
気に入ってくれた?
ねぇ、つまらなくなくなったでしょ?
ん?感動の涙?違う。
おかしいな、期待した反応と違うよ。君。
あ、そうか。ねぇ、君。
今度、僕の家に遊びにおいでよ。
僕ね、気づいちゃったんだ。
何が?って。
僕は君がとっても大好きだから、いつでも君と一緒にいたいんだ。
僕の願いと、君のつまらない日常をいっぺんに解決できる方法だよ。
だから、ねぇ、君。
僕の家に遊びにおいでよ。