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放課後の出来事

作者:

 高校に入ってから、ずっと喧嘩ばかりしていた。売られた喧嘩は勝ち目がなくても買ってきた。そんな俺を生徒も先生も白い目で見て、誰も近寄ろうとはしなかった。

 あいつ以外は。

「うわ。今日はまた派手にやらかしたのね」

「うっせ」

 保健室で、治療を受けている俺。呆れながら手当てしているのは同じクラスの学級委員長の女子だ。見た目は大人しそうな清楚系なのに、性格はさばさばとしている。

 初めて会ったのは、久しぶりにぼろ負けした日だった。動けないほどの傷を負い、寝てればいいかと、裏庭で倒れ込んでいた時、委員長がやってきた。

「うっわ。ボロボロ。あなた、同じクラスの喧嘩屋君ね」

 反論もできない俺は、視線だけで帰れと脅した。大抵のやつはこれで逃げ帰るからだ。しかし、委員長は動けないと知るや否や、俺の片手を肩に回し、引っ張り上げ保健室まで連行された。

 それからというもの、喧嘩の傷がばれる度に校内を追いかけまわされ、保健室に連行されるのだ。逃げるのもめんどくさくなった俺は、自首するようになったのである。

「まぁ、こんなもんかな」

「物好きだな、お前」

「褒め言葉として受け取っておく。んで、午後の授業は?」

「さぼる」

 学ランを着直して、俺は保健室を出る。委員長はけがの手当てをしても、授業に無理やり連れていくことはなかった。

 委員長の考えは良く分からないが、俺にとってはケガの直りがよくなり、喧嘩がしやすくなるというメリットしかないため、特に気にしてはいない。

「今日は裏庭にすっかな」

 背筋を伸ばして、いつもの昼寝場所に行くのだった。


「――!」

「――」

 目を覚ましたのは、陽が傾いてきたころで、部活の声が聞こえることから、放課後だというのが分かる。しかし、俺の睡眠を妨害したのは、言い争う声だった。

 木や草が壁となり、言い争っているやつらには俺の姿が見えていないんだろう。寝ざめの悪い俺の寝ている傍で騒ぐなど、この学校にはいないはずだ。

(うるさ)

「だから、なんで花壇に飲み物を捨てたのかって聞いているんです」

「だーかーらー、お花さんが欲しがっていたからですって言ってるじゃん?」

(この声は…)

 昼休みにも聞いた、委員長の声に酷似していた。相手は数人の不良グループだろう。ゲラゲラと汚い笑い声が聞こえてくる。

「やめてください。いくら先輩でも、やっていいことと悪いことはあります」

「でも、先生たちは、何も言わないよねぇ?」

「言えない、の間違いでしょう。だから私が言っているんです」

 不良たちの声音がどんどん不機嫌になっていく。委員長の長所は、相手によっては短所になるようで、かたくなに引き下がらないようだ。

 なんだか、腹の内側がむかむかとしてきた。喧嘩を買う時に感じる不快感とはまた違う。委員長もさっさと引っ込めばいいのに、なぜ無駄という言葉を知らないのだろう。

「てかてか、君のクラスにも問題児はいるでしょ?俺らだけに文句言うなんてこと、できないよね?」

「彼は自分から喧嘩を仕掛けたことはないです。買ってしまうのも、授業に出ないのも問題ですが、少なくとも関係ないものを巻き込むことを好みません。あなた方と彼は違います」

「あぁ?んだと?」

 きっぱりと言い放った言葉に、目を見開いて驚いた。そこまで委員長が見ていたとは…。

 しだいに、笑いがこみ上げてくる。そこまで女に否定されている先輩方はお怒りがピークにきていて、その程度の人間と一緒にされるのは、自分自身心外だった。

「委員長、どんだけ俺のこと見てんの」

「!」

 後ろから顔を覗き込むと、委員長が声が出ないほど驚いていた。腹の虫はいつの間にか収まっており、委員長を驚かせて気分がさらに良くなった。視線だけ動かし、委員長を囲んでいる先輩方の足元を見ると、オレンジジュースが花壇にぶちまけられていた。

「うっわ。きたな。ちゃんと掃除しといてくださいよー?センパイ」

 先輩、という言葉に力を込めて言うと、尻尾を巻いて脱兎のごとく逃げていった。

「い、いつから聞いてたの」

「えー、飲み物を花壇に捨てるなーってとこらへん?」

「ほとんど全部じゃないの…」

 へなへなと、顔を両手で覆って委員長は力なくその場にしゃがみこんだ。

「あれー?どうしたんすかー?委員長―?」

 左右から顔を覗き込もうとするが、委員長は、虫を払うかのように片手を払って抵抗した。しかし、逆にその腕を掴み、委員長を立たせ、引っ張っていく。

「気分がいいから、帰りになんか奢ってやるよ」

 些細な抵抗を無視して、委員長の手を引いて教室に向かう。自分でも気持ち悪いと思うくらい、ニヤニヤが止まらない。

「じ、自分で歩けるから!」

「やーだね」

 離せという委員長を横目で見ると、顔が赤くなっているように見えた。

 それが夕日のせいだったのか、違う何かのせいだったのか、それを知るのはもっと先の話である。



ファミレス店にて

「…まてまてまて、奢るとは言ったが、こ、これはさすがに…」

「男に二言なんてないでしょう?あ。大丈夫よ。もちろん私が全部食べるから」

 テーブルの上に所狭しと並ぶデザートの数に、勝ち誇ったような委員長。

 財布の中身を心配すると同時に、こいつには勝てる気がしなかった。

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