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瞼の外側から朝日に目を刺され、ニルコルは瓦礫と化したアジトの上で目覚めた。

「おはよう、ニルコル!」

無邪気な挨拶の主は

「お前は…セル、だったか。何で俺は生きてんだ。お前を巻き込んで自爆魔法を使ったんだ。生きている筈が無い。」

「アホか、俺が助けてやったんだよ。ありがたく思え。」

「お前が俺を助けた?何故だ、俺を助けても何もお前の利益にはならんだろうに…」

「だって自分の部下を助けるのは当然だろ?」

「はぁ?お前の部下!?」

「そうだ。お前、前に俺が『合併』の相談した時断ったろ?で、お前は俺に負けたからお前の『蠅の王(ベルゼブブ)』は『セレルマリーの花束を』に『吸収』する。文句言っても聞かんぞ。」

「…冗談だろ?」

「本気に決まってんだろ。」

「テメェ何考えてんだ!?」

「テメェじゃねえ、セルだ。なんならボスって呼んでもいいぞ?」

「死んでも呼ばねえ…」

「チッ意地っ張りめ。」

軽口の応酬をしているとニルコルはだんだん視界が暗くなっていくのを感じた。

自爆魔法には大量の魔力を使う。

反動が来たのだろう。

(ああ、クッソ。ここで魔力切れかよ。敵のボスが目の前に居るっつーのに…)



リオは困惑していた。

「あ、リオ丁度良いところに。」

我らがボス、セルが空を飛んでいる。

それ自体は別に驚く事でも何でもない。

ボスの魔法は何度も見たが、いつ見ても美しいと思う。

問題はボスの周りだ。

何故か地面が大きな怪物のようにぱっくりと口を開けている。

そして当のボスは優雅に炎の翼で羽ばたきながら、肩に男を担いでいる。

担がれている男の短く刈ってある土色の髪の毛や着ているシャツはグシャグシャのヨレヨレになっている。


「ボス…何があったんだ?」

「これか?なんかこいつ(ニルコル)がヤケクソで自爆魔法使いやがって、その結果。」

「ふーん…」

その、ふーんには「ボスを巻き込んで自爆ねぇ…いい度胸してんじゃねえか。」とか「何でそいつはボスに担がれてんだよ、距離近えんだよ。」とか、そう言った意味も含まれていたのだが残念ながらその場にその事に気付いた者は居なかった。

「で?丁度良いってどういう事?」

「いやさっきこいつの目が覚めたからさ、お前らを『セレルマリーの花束を』に吸収するって言ったら、何か気絶しちゃって…」

「ボスの話の展開が早すぎてついていけなかったんじゃねえか、そいつの頭が。」

さらりと失礼な事を言うリオ。

「そんなに驚くことかな?」

「誰だって襲撃してきた奴が、お前の組織を吸収するって言い出したら驚くだろ…」

「あれ?それもしかして実体験?」

「…うるせぇ。」

「やっぱりねー、リオの時は気絶はしなかったけど、ものすっごい驚いてたもんね。」


実はリオは5年前に『セレルマリーの花束を』に吸収されたヴィアロ集団『魔狼フェンリル』のボス、氷狼アシュヴィリオンなのだ。

親を早くに亡くし、こう不幸ふこうか、齢10歳で組織を纏めるだけの才覚を持っていた孤独な少年は、5年前にセルにぶちのめされそれ以来ずっと、セルの右腕兼親友として同じ道を歩いて来た。

そんな彼だからこそニルコルの気持ちが分かるというものだ。

(俺もあんときゃ目ん玉飛び出るかっつーくらい驚いたもんなぁ…)

5年前を思い出し感傷に浸るリオ。

少々じじくさい。

「で?俺に何をしろと?」

「俺の魔力がそろそろ限界を迎えるので助けてください!」

「いい笑顔で言うことじゃねぇ!ったく、魔力少ないのに無理しやがって…」

文句を言いつつ、袖をまくってセルを抱きとめる準備をする彼は、なかなか良いヴィアロである。



「セル、今回も捕まえたのかい?」

「がっつり捕獲してました。」

「そうかそうか…ブレないねぇ、我らがボスは。」

「まったくです。」

艶のある女の声とまだ若い男の話し声が聞こえてきたニルコルはうっすらと瞼を上げる。

そこには見事な黒髪と瞳を持つ異国の美女と、女と比べてやや青みがかった黒髪の少年だった。

「おっ、目を覚ましたね。」

ニルコルが目を覚ました事に気付いた女_雅は微笑む。

「じゃあ自己紹介と行こうかい。アタシは雅。『セレルマリーの花束を』の幹部さ。あんたにとっちゃ上司って事になるのかねぇ。ま、よろしく。」

「へっ?はっはい、よろしくお願いします?」

何が何だかよく分からんが美人の笑顔の迫力に押され、何となくよろしくしてしまうニルコル。

「俺はリオ。俺も雅さんと同じく『セレルマリーの花束を』の幹部だ。…まぁ、困惑するのも分かる。俺の組織もこんな感じで吸収されたからな。だがまあ、慣れろ。これからよろしく。」

「よ、よろしくお願いします。」

そこでふとニルコルは気付く。

「…もしかしてお前は『氷狼』か?伝説のヴィアロの。」

「……そうだがその名で呼ぶな。」

「じゃあ、名前はなんだ?」

「…俺に名前は無い。ただ他の奴らは俺のことを『氷狼アシュヴィリオン』と呼ぶ。」

「じゃあなんて呼べば良いんだよ!?」

「おや、リオ。あんたにゃセルがつけてくれた『リオ』っていう良い名前が有るじゃないか。」

「『リオ』はただ俺の異名を短くしただけだろ…」

「それでも、セルがあんたに与えて名前さ。」

「…仕方ない。俺はリオだ。そう呼べ。」

しぶしぶといった風情だが雅は気づいていた。

リオの頬が少し赤く染まるところを。

(何だい、結局嬉しいんだろう?セルがつけてくれた名前が有ることが。)

「じゃあ、リオと雅…さん?よろしくお願いします。」

こうして『セレルマリーの花束を』の愉快な仲間がまた増えた。

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