作家と怪物
とある満月の夜、ある男が死んだ。
地位も金も力も無かった哀れな男はなぜ死んだのか。
なんらかの偶然による事故死? 否。
はたまた、現状に絶望しての自殺? 否。
ならば…殺害された? 正解。
じゃあ、誰に殺害された。
男に恨みを持つ人物? 否。
逆に男を愛しすぎた女とか? 否。
だったら…あと何がある?
無差別殺人。
犯人は別に男に恨みがあった訳じゃない。
もちろん、愛していた訳でもない。
ただ、そこに居たのがその男だった…それだけさ。
男はどうやって殺害された。
う〜ん、無差別ならすれ違いざまにグサッとかは? 刺殺?否。
じゃあ、手頃な物で撲殺? 否。
背後から忍び寄って絞殺。 否。
どっかから突き落とす! 否。
毒殺! 否。
溺死させた! 否。
…分からん、降参だ。 そうか。
男はどうやって殺害されたんだ?
お前は、とても有名な殺害方法を忘れている。
そうか?一般的なのはあらかた言ったつもりだが?
それは人間が行う殺害方法として一般的なものだろ?
…もしかして、犯人は……ヴィアロか?
正解、その通り。
じゃあその男は…
喰い殺されたのさ。
肉を噛みちぎられ、血を啜られてね。
そうか…その可能性を忘れてた…。
ありがとう!小説のイメージが湧いてきた。
スランプから脱出できそうだ。
それは良かった。
帰り道は気をつけた方がいい。
もう暗いからね。
そうだな。
お前の話に出てきた男にゃなりたくないからな。
じゃあな。
ああ、また会おう
あの作家だという男に、この話に出てくる犯人は僕だと言ったらどんな顔をするだろうか。
見てみたいな。
この世界には人間と変わらぬ姿で、人間と共に暮らし、素知らぬ顔をして人間を喰らう怪物_ヴィアロがいる。
彼らはあなたのすぐ横に…。