5話 『師弟』
次の日の朝。
引き払って宿から出るときは随分と大層な挨拶と心配をされてしまった。
街を移るわけでもないし1週間くらいで帰られると思うんだけどなぁ。
帰って来たらまた泊まらせて下さい、と伝えたら喜んでくれた。
そんなこんなで集合場所にやってきた。
アルフレッドさんはもう来ていて、待たせてしまったようだ。
「来たか」
「すいません遅れました!おはようございます!よろしくおねがいします!」
「元気だな。とりあえず森に入る。話ながら目的地まで行こう」
そう言ってアルフレッドさんは歩き出す。あまり大きな荷物は持っていないようだ。
「講習で聞いてる内容もあるだろうがとりあえず魔素について一通り話してやるから聞いとけ」
この世界には魔素と呼ばれる物があり、生き物でもそうでなくても量に差はあるがみんながもっている。
これを使って魔法を発動させたり、身体能力強化を行ったりできる。
動物が魔素を大量に含んだものが「魔物」だ。
魔素溜まり等から生まれたものや魔素に適合して進化した魔物などが「魔獣」と呼ばれ、魔物と魔獣では大きな差がある。
魔物は、元は動物なので大きさも元の動物とそんなに変わらないが、魔獣はとにかく大きい。
最低でも2~3メートルから大きいものだと10数メートルを軽く超えるものまでいる。
そしてこの魔素を使うことで人間も身体能力を強化することができる。
体の動きや筋力を魔法でフォローするようなイメージだ。
魔物や魔獣と戦う場合は必須で、できないとまず魔物にも勝ち目はなく、Cランクになる試験は魔素の扱いができないと受けられない。
魔獣になるとサイズ的に身体強化だけでは厳しくなるがまた別のとっておきの魔法がある。
気になったが今はまだ早いと言われてしまった。
で、前から気になっていた魔法だが、これが一番衝撃が大きかった。
魔素を使って、魔法を使ったり身体能力強化を行ったりする。
魔素は空気や日光など自然から吸収する分もあるし、体内で作られる分もある。
ので、基本的にどんな生き物でもある程度は魔素を持っているし、覚えれば多少は使用することできる。
使える魔法は、基本的には火、水、土、風の自然四属性のどれかになる。
魔法には個人ごとに適性属性があり、使えるのは大抵一種類のみとなっている。
また種族によって使い方に得意不得意があるそうで、獣人は元の身体能力が高く、身体強化の魔法と相性が良く効率がいいため、ほとんど身体強化に回す。普通の魔法使うより手っ取り早いし強いんなら無理に使う必要ないわな。
魔物は身体強化のみだが、魔獣はある程度以上になると獣人に
近いようで身体強化と種に応じた適性魔法を使えるようになる。
魔法を使うレベルの魔獣は、街が壊滅しかねないほどになるそうだ。
ドワーフなどは種族としての特性なのか、土属性が出ることが多いらしい。
エルフは魔素による身体強化は使えないが、魔法と自然との
親和性が高いらしく火、水、風、土の基本属性4つ全てを使えるそうだ。
エルフ強くね?
そして人間。
なんと残念な事に人間は魔素を魔法として体外で行使するのが極端に不得手で、
仮に獣人と同じ量の魔素で魔法を発動しても、2割から
3割程度の威力しか出すことができない。なんとも燃費の悪い事だ。
しかし、人間以外の種族が自然四属性のどれかに適性が
あるのに対し、人間は特殊な適性が稀に出ることがあり、
有史以来、一件しか確認されていないような固有魔法が出ることもあるそうだ。
ただ、燃費が悪いことに変わりはないので、身体強化の
肉弾戦や、弓などをメインに、自分の魔法をうまく補助的に
使って戦う事が大事だそうだ。
「よし、この辺でいいか。魔素についての大体の説明は
終わった。森の中は魔素が多いから感覚が掴みやすい。後はやって覚えるぞ。それと今から俺のことは師匠と呼べ!あ、兄貴でもいいぞ?」
ニっと笑いながらアルフレッドさんが言う。
「…よろしくお願いします師匠。」
真面目なんだか軽いノリなんだかよくわからんなこの人は。
◇◇
「この木でいいかな?あの葉っぱをジャンプして取れ。それが最初だ。」
「集中して周りの空気、自分の中の感覚を感じとれるようになれば魔素の動きがわかるはずだ。後はやって覚えろ」
かなり高い位置に枝葉がある。普通に考えれば無理なんだが、ここは魔法の世界。
「わかりました!」
「その間に俺は飯を捕ってくる」
そう言って師匠は森の奥に消えていってしまった。
それじゃやってみようかね!魔法への第一歩だ!
◇◇
それから数時間飛び続け、ヘトヘトになった頃にようやく成功する事が出来た。
疲れて余計な事を考えられなくなったのがよかったのだろうか、イヤに体の中の感覚がよくわかるようになって、あったかい何かが判るようになった。
あ、師匠が帰って来た。
「お、出来たみてぇだな。もう少しかかるかと思ったが早かったじゃねぇか」
嬉しそうな顔してんなぁ。とりあえず期待以上だったみたいでよかった。
「ヘトヘトですけどね…もう動けないっす」
「最初は魔素を使ったらそうなるんだよ。明日からは実戦すっからな。とりあえず飯食おうぜ」
そう言いながら師匠は火の魔法で肉を焼く準備をしだした。
焼けるまでこれでも食ってろ、と言わんばかりに果物を投げてくれる。
重い体に鞭をうち、なんとか受けとり齧りつく。疲労で忘れていたが喉も乾いていたようだ。
「…うまいっすねこれ…」
甘い果汁が染み渡る。
パチパチと焼ける音が聞こえていた。