4話 『出会い』
目を覚ますと、男は火の番をしていたようで、パチパチと音が聞こえる。辺りもすっかり真っ暗だ。
倒れる寸前にはほとんど顔を見れなかったが、思ったより若そうだ。
金髪をオールバックにしていてワイルドな感じだ。美形で色白だしエルフかと思ったが耳は普通だった。
マントまでかけてくれてる。行動までイケメン!なんて思っていたら声をかけられた。
「起きたか。大丈夫か??」
「ありがとうございまいってぇ…」
起きながら礼を言おうとしたが身体中が痛い…
「無理すんな。俺はアルフレッド。アルでもフレッドでも好きに呼べ」
「ハルです。助けて頂いてありがとうございました!!」
「…おう。冒険者だろ?ランクはいくつだ?」
「Dになったとこです」
「っ…おいおい…なんでルーキーがあんなとこに一人でいたんだ?死にたがりか?」
驚いたような顔でアルフレッドさんに聞かれたが、俺だって死にたかった訳ではない。不慮の遭遇だったのだ。
「街の近くで薬草採ってたらアイツが現れて、逃げ回ってたんですよ…」
「…そうか。街の近くにアレが出たか。よく逃げ回れたな。ここは街からは結構離れてるぞ」
やはり街の近くに出るのは珍しいらしい。そりゃそうだよな、あんなのが出たら大騒ぎだ。
「生活するために毎日走り回ってましたからねー。体力には自信あります!あ、アルフレッドさん強いんですね!!魔法2発で倒してましたもんね!」
炎の魔法と雷の魔法、2発であのでかいカマキリを倒してしまった。
「………………まぁな。ちなみに、ハルは冒険者になってどれくらいだ?」
「2ヶ月くらいになりますかねー?」
少し間があった気がするけどなんだったんだろうか。
「魔法や戦闘に関しての師はいるのか?」
「いえ、ギルドの初心者講習と、実地指導で基本的な事を教わったくらいです。」
「…そうか。街まで送ってやるよ」
「ほんとですか!?一人で戻れる気がしなかったんですよ…ありがとうございます。アルフレッドさんは依頼ですか??
本当に助かる、アレを見たあとで、森を一人でうろつく勇気はない。
アルフレッドさんが来なければ間違いなく俺はあそこで死んでいただろう。
「森の調査と駆除だな。飯食ったら寝ろ。明日も早いぞ」
「わかりました。そうさせてもらいます。何から何まですいません」
本当に…怖かったな…。
◇◇◇
次の日、アルフレッドさんの後ろを付いて歩いたが、この人おそらくとんでもなく凄い人だ。
まず魔物に気付くのが異常に早い。痕跡や気配、魔力の流れ等で探すと教えてくれたがさっぱりわからん。
魔物はこちらに気づきもせず、回避してやり過ごすか駆除するかしている。
倒すときも音もなく一撃だ。危険なやつだけ駆除しているそうだ。
そんなこんなで夕方すぎにはニアフォレストに戻ってくる事ができた。
「あぁ…帰ってこれた…生きてるって素晴らしい…」
1日森に居ただけだが、死にかけたし濃い1日だった。
「ハル、お前、強くなりたいか?」
アルフレッドさんは突然俺の目をまっすぐ見て言った。
「どうしたんですか急に。もちろん強くなりたいです。死にたくないですしやらないといけない事がありますからね」
「俺と一緒に来るか?鍛えてやるぞ」
「ほんとですか!?お願いします!!!
願ったり叶ったりだ。一人でできる限界に来ていたしこの人の強さは本物だ。
「んじゃ昨日途中だったクエスト終わらせてこい。カマキリの事は言わなくていい。俺から報告しておくから。終わったら帰っていいから、今晩で宿は引き払え。荷物を纏めて明日の朝、東門に来い」
「わかりました!では明日の朝に!」
クエストを終わらせ、宿についた。ベットって素晴らしい!
受付のお姉さんも宿の女将も大分心配してくれていたようだ。
そりゃそうだ、今までは当日中に報告して毎日宿に戻ってたからなー。申し訳ない。実際かなり危険だったんだけどとても言えないなぁ。
とにかく生きて帰ってこれた!強い人に鍛えてもらえる事になったし、がんばらないとなぁ……とりあえず…寝よう…。
◇◇
ハルと別れた後。
ギルドの2階、豪華ではないがしっかりした作りのソファにアルフレッドは座っている。
と、誰かが扉をあけて入ってくる。
「遅くなってすまん!珍しいな。まだ報告日には早いぞ?」
二メートル近い身長で筋骨隆々のこの男、この街・ニアフォレストのギルドマスター「クライブ・イーグルベル」である。
「よっ!遅くにすまんな。緊急で報告しておきたい事があってな」
昔からの馴染みにアルフレッドも口調が砕ける。
「なんかあったのか?」
クライヴは訝しむ。あのアルフレッドが緊急と言う程だ。
「森の浅い場所で魔物がでたので駆除した。デリルマンティスの幼体だ」
酒を傾けながらアルフレッドは言う。
「!そうか…そんなに近くに出たのか。いつもすまんな」
デリルマンティスは成体になると体長が10数メートルを軽く超える魔獣だ。大型のものなら町程度軽く滅ぼす力を持つこともある。
が、今回は幼体らしい。生身でもBランク冒険者が数人もいれば充分だ。アルフレッドが緊急と言うには些か疑問が残る。
と、アルフレッドは言葉を続ける。
「もう一つ、ハルって若い冒険者いるか?」
「少し前に入った子だな。真面目で勉強熱心だと聞いてるが特別目立つような所はないぞ。それがどうした?」
アルフレッドの質問の意味が分からない。Dランクになったばかりの冒険者が何の関係があるのか?
「マンティスを倒したのはハルだ」
「…ばかな!一体どうやって!?幼体でも魔物、Bランク数人がかりで討伐適正だぞ!?」
信じられない。言っているのがアルフレッドでなければ到底信じられる事ではない!
「マンティスを見つけて雷撃魔法を撃ったが、直前に炎の魔法でマンティスが倒された。俺以外にあの場にいたのはハルだけだった。間違いなくハルが魔法を使っている。本人は俺が両方やったと思っているようだがな」
「生身の人間が魔物を一撃で倒す程の魔法を発動させただと?お前じゃあるまいし無理だ」
もちろん倒せない訳ではない。幼体ならばクライヴ一人でも倒せる。
だが、アルフレッドならまだしも、普通の人間に一撃で倒す威力の魔法が使えるハズがない。
「だが実際に起こっている。なにか原因があるのか、特別な力なのか、なんにせよ今のままでは危険だ。」
アルフレッドはクライヴに警告する。これはこの街を、引いては王国の、大森林からの壁であるこの街の責任者へのことだ。
「魔物や魔獣が増えて街の近くまで出てきてる事も異常だ。なにか関係があるのかもしれん」
早急に調べねばならん…受付ならよく話しているか?明日は情報集めるか…いやいっそ本人を…うぅむ…と、クライヴが今後の対応を考えていると
「あぁ。なのでしばらく俺が預かる。自分の身は自分で守れる程度にはなってもらわないとな。帝国に漏れても面倒だ、明日から早速連れて森に入るからな。俺が師匠だ!!」
イタズラを思い付いた子供のように楽しそうに無邪気にアルフレッドは言う。
「そ、そうか…わかった。俺の方でも少し調べてみよう。」
まぁアルフレッドなら大丈夫だろう。
「頼む。次はまた定期報告の時に戻るよ」
そう矢継ぎ早に言ってアルフレッドは部屋から出ていった。
「さてさて…。どうなることやら」
次から次へと色々な事が起きるものだ、と辟易しながら、
少し楽しそうだったアルフレッドを思い出して苦笑する。
「アルが人に物教えるなんてできるのかねぇ…」
クックックと小さく笑いながら溜まった書類を片付けるギルドマスターであった。