前編
処女作です。そんなに長く続きません。
もうすぐこの国で大規模な舞踏会が開かれるらしい。
「その舞踏会には国中の若い娘が招待されるんですって。そして、その中から王子様の婚約者を見つけるんだって。すてきよね!ねえルイ私の話聞いてる?」
わたしは、ついさっきお義姉さまから聞いた話をそのまま、木の上で読書している幼馴染のルイに報告する。
「もちろん。ちゃんと聞いてるよ、シンデレラ。むしろ、今までその話を知らなかった君の方に僕は驚きを隠せないよ。」
太陽に反射してキラキラ光る金髪をなびかせて、切れ長の青い瞳を本に向けながら、幼馴染は表情一つ変えずに答える。
ルイの嫌味は今日も健在だ。しかし、そんなことをいちいち気にしている私ではない。伊達に幼馴染を長年やっているわけではないのだ。
「ねえねえ!王子様ってどんな人なのかな?やっぱり、噂通りすごくかっこいいのかな。」
この国には、18歳で成人するまで王族は国民の前に出ない決まりがある。なんでも、王族としての心得をきちんと教育するためらしい。今、この国の王様には3人の息子がいて、近々1番上の王子様が成人を迎える。その、成人を祝う舞踏会でなんと王子様の婚約者も探すというというのだ。
「さあね。王子がみんな、おとぎ話みたいな人物とは限らないんじゃない。どうせ、女遊びがひどいナンパ男だから、王様に早く婚約者を見つけるようにせっつかれたのさ。それに、シンデレラの年齢じゃパーティーに招待されるにはまだ少し若すぎるでしょ。夢に見るだけ無駄だよ。」
「そ、そんなこと、わかってるわよ。ただ、王子様ってどんな人なのかなって、ちょっと気になるじゃない。お義姉さまたちなんかもうすごい張り切っちゃってるんだから。朝から、何回もお義姉たちの髪をブラッシングして、腕か疲れちゃった。」
「ふうん。それはそれはご苦労様。それで君はそんなくだらないことをわざわざ報告するために僕のところに来たのかい。」
読んでいた本がようやく区切りがついたのか、ルイが私に視線を向ける。相変わらず、顔だけはイケメンだ。顔だけは。それこそ、お話に出で来る王子様みたいに。
「くだらなくなんかないわ。王子様と結婚できるなんて。女の子にとっては一生の夢なんだからね。男の子のルイにはわからないでしょうけど。」
「女の子の夢ねえ。じゃあ、君も王子様と結婚したいと思う?」
珍しく、ルイが話に乗ってきている。どうやら、ルイも王子様に興味があるらしい。隠したって幼馴染の私はお見通しなのだ。ここは話を合わせてあげよう。私はちゃんと大人な対応ができる女なのだ。
「そうねえ。そうなれたら素敵よね。でも、あんまりよく知らない人と結婚はちょっと怖いかも。」
「じゃあ、よく知ってる王子様なら結婚してもいいってことだね。」
「えーと…まあそうなるのかな?」
まあ、王子様が知り合いなんてありえない話だ。なんでも、3人の王子様はそれぞれ身分を隠して国民の生活を知るための勉強中らしい。知り合う機会なんてないのだ。
「なんで疑問形?まあいいけど。それより、君そろそろ屋敷に戻らなくて大丈夫なのかい。あまり長いことここにいることがバレたらあのうるさい継母と義姉さんに怒られちゃうんじゃない?」
「もうそんなに時間たっちゃったの?大変!早く買い物を済ませなきゃ。お夕飯に間に合わないわ。またね!ルイ!!」
「せいぜい、夕飯を焦がさないように気をつけなよ。」
「わかってるわよ。もう。」
別れ際の嫌味も忘れないルイに、内心関心しながら、私は夕飯の買い物に急いだ。
ルイと初めて会ったのは、彼が私が住む屋敷の隣に引っ越してきた時だ。
「初めまして。よろしくね。仲良くしましょう」
その頃はまだ、私のお父様も生きていて、私は「シンデレラ(灰かぶり)」じゃなかった。私はお父様に連れられて引っ越してきたお隣さんに一緒にあいさつに行った。そこで出会ったまるでお人形みたいにかわいい男の子がルイだった。私は初めて会った瞬間彼に恋に落ちたのだ。所詮一目惚れというやつだ。
「なんできみみたいな平凡な子とわざわざよろしくする必要があるんだい?訳が分からないね。」
でも、そのころから、ルイの嫌味は健在だった。そして、当時まだガラスのハートだった私の心と共に初恋は見事に打ち砕かれた。その後も、会うたびに投下されるルイの嫌味攻撃で何度も心が折れそうになったけど、そのお陰なのか今では私のハートの鍛え抜かれた猛者なみに強靭で図太くたくましく育ってしまった。
数年前に、はやり病でお父様が亡くなってしまってからは、ルイだけが唯一私の話し相手だ。屋敷の掃除や買い物などの仕事の合間をみて、こうしてくだらない話をすることが数少ない私の楽しみなのだ。ルイは嫌味っぽいところもあるけど、実は優しい人だって私は知っている。お母様を幼いころに亡くして、お父様までいなくなって一人ぼっちになってしまった私を一番近くで慰めてくれたのはルイだ。それ以外にも何だかんだ嫌味を言いつつルイは私を助けてくれる。だから私は、ルイには本当に感謝している。私もルイにいつか恩返しがしたい。そんなことを以前彼に伝えたら、「だったら、僕の勉強を邪魔しないように、僕の周辺ではしゃがないことだが一番の恩返しだね。」だなんて言われてしまった。ルイはお父さんの仕事をお手伝いするための勉強をするために、わざわざ親元を離れてここに引っ越してきたらしい。人の家にはその家の『ジジョウ』があるらしいから、あまり深く詮索しない。だって、私は大人の女性なのだから。ルイもルイでいろいろ大変なのだ。
それから、しばらく日がたって、あっという間に舞踏会の当日になってしまった。あれから怒涛のように毎日が過ぎていった。それもこれも、全部舞踏会のせいだ。お義姉さまたちの準備に何かと仕事を言いつけられて、ルイのところに行く暇もなかった。そんな日々も今日で終わる。なんとか、今日を乗り切るんだ。頑張れ私!!
「シンデレラ!髪を結って頂戴!舞踏会で目立つように派手に結うんだよ!」
「はい。お義姉さま」
「シンデレラ!なにをもたもたしてるんだい!?ドレスの準備はまだなの?舞踏会に送れちゃう!」
「はい!ただいま」
「「「シンデレラ!!!!」」」
全ての準備を終える頃にはもう私はくたくたのフラフラになっていた。
「じゃあ、行ってくるからね。私たちが舞踏会に行ってる間、仕事をさぼるんじゃないよ。」
「はい。お継母さま。わかっています。お気を付けて」
ド派手に着飾ったお継母さまとお義姉さまたちは意気揚々と出かけて行った。
(これでやっと一息つける。今日は一日動き回って疲れたわ。早く寝たいな…)
「継母にこき使われ、義姉にいじめられている孤独でかわいそうなシンデレラとはお前のことか?」
「あれ?私ったら疲れすぎて幻聴が聞こえるわ。これはもう早く休まないと」
「違う!幻聴じゃないよ!!ここにいるよ!」
「えっ?」
振り返るとそこにはとびきりキラキラした容姿のかわいらしい男の子がいた。いつの間に屋敷に入り込んだのだろう?身長も私より低いし、どうやら年下のようだ。
「ぼく、こんな所でどうしたの?もしかして迷子かなんかかな?」
「違う!!僕は迷子なんかじゃ!!・・・・ごほん。私は迷子なんがではない。魔法使いじゃ」
「え?魔法使い??なんで、そんな人がここに?」
確かに、よく見てみると男の子は話に聞くような長いローブを着ているし、どこか高貴な雰囲気を身にまとっている気がする。本物の魔法使いってあったことないけど、姿や形を簡単に変えたりできるって聞いたことあるし、もしかして本物かも。
「それは、ロイ兄さんに無理やり…じゃなかった。毎日家の仕事を押し付けられ、働かされている可哀想なシンデレラに今日は褒美をやるために来たのだ。」
「ご褒美?わあ嬉しいな。なんだろう。」
「お前を、お城で開かれている舞踏会に連れて行ってやろう。」
「舞踏会に??ん~ありがたいですけど、私舞踏会に行くにはまだ年齢が若すぎると思うんです。それに、今日はものすごく疲れていてできれば早く寝たいなあ~なんて…」
「えっ?そんなの困るよ!!お姉さんが舞踏会に行ってくれないと、僕ロイ兄さんに殺されちゃう!」
自称『魔法使い』さんは私の申し出を聞いたとたんキラキラした目を潤ませて、半べそになって焦りだした。その姿がなんだかちょっと可愛いななんて思ってしまった。けど、そんなことよりも、魔法使いさんにもいろいろ事情があるらしい。必死に舞踏会に行くようにせがむ姿を見て可哀想になってしまった。
「えーと。そんなに泣かないで。はい、ハンカチ。そんなに言うなら、ちょっと参加してもいいですけど…でも、私ドレスとかないですし…」
その言葉を聞いたとたん半べそで私のハンカチで鼻水を拭いていた魔法使いさんは、パアっと顔を輝かせた。ああ、あのハンカチ結構お気に入りだったんだけどな…仕方がないか。
「本当!?やっぱり聞いてた通り、お姉さんは優しい人なんだね。道理で嫌味なあの…ってそんなことはおいといて!ドレスとかは任せて!全部準備は整ってるから!とりあえずこの馬車に乗って乗って!!」
前半よくわからないことを口走っていたけど、魔法使いさんはいつの間にか待機していた豪華な馬車に無理やり私を押し込めた。
「えっ。あの、ちょっと!」
私が乗り込んだとたん、馬車は勢いよく走りだす。あれ、魔法使いさん一緒に来てくれないの?魔法は??いろいろ訳が分からない状態のまま、馬車の窓から顔を出すと魔法使いさんがさっきのハンカチを振りながら叫んでいた。
「とりあえず。お城に行けば何とかなるから!舞踏会楽しんできてね!!きっと大丈夫だから!」
「えっ?大丈夫って何が??あのちょっと!」
かなり、不安なんですけど!私これから本当に大丈夫なのかな…このことがルイにバレたら盛大な嫌味と共に怒られるだろうな。
そんな、心配をしている私をよそに馬車は勢いよくお城に向って進んでいくのであった。