老人、この世を去る
「ようやく、ようやくワシの時代が来たか...。」
還暦は過ぎている、下手したら70まで届きそうな見た目の老人が大量の機械が置かれた部屋でつぶやいた。彼はそれらの機械の電源を付けると、ダイヤルを回しボタンを押した。すると途端に部屋の中央の床面が淡く光り空間が歪んみ、まるで床に奈落に通じる穴があいたように見えてくる。老人の体は次第に震え始め、口からは笑いがこぼれだす。
「くくく、中高大とワシの事をバカにし続けた奴等をようやっと見返せる。あいつらめ、目に物見せてくれるわ」
老人の名前は久遠 繫人、その男は子供の頃から異世界転生というものにあこがれていた。
彼は所謂オタクで自分が今いる現実に納得がいかず、誰も知り合いのいない新しい世界へ旅立ちたいと願っていた。ついでに新しい世界では小説で読んだようなチートを手に入れ、未知の世界を旅することに憧れ、様々な種族の女性を侍らせてハーレムを作ってみたいなどと妄想もしていた。
当然都合よく異世界から召還されるなんて事が起きるわけもなく、かといってトラックの前に身を投げるような勇気の無かった彼は自身の青春時代を異世界に行くことなくすごしていた。中学校3年間を何事もなくすごしたときに彼は気づいた、奇跡とは誰かに与えられるものではなく自分で勝ち取るべきものだと。
彼は何を思ったか、異世界を自分で見つけようと、自分の力で異世界に行こうと決めたのだ。それからの彼の人生は努力の日々だった。学校でまともに友人も作らず、クラスメイトから気味悪がられても勉強漬けの日々。高校生活を勉強に捧げた後、日本最高学府に入りそこを首席で卒業。その後外国の大学院で学び、そこを出た後は研究の日々。異世界へと渡る技術の副産物として様々な発見をし、特許を取り莫大な利益を上げて、それらを全て開発資金と準備費用にあてて行った。
そんな彼は、ある日ついに見つけた。異世界へと渡るための条件を。彼はすぐに行動に移った、身の回りを整理して万が一のことがあっても問題ないようにして、そしてついに今日、その機会を起動させた。
そんな彼は研究室で自分の半世紀以上の努力の日々を思い出して感傷に浸っていた。
「思えば長かった、10代の決意から既に50年近く。もうワシも既に70手前。30後半からハーレムの夢は諦めていたが、それでも未知の世界を見てみたいというこの欲求は収まらなかった。そして今日、ついに、ついにワシは異世界を観測する初の人間になる!」
彼はそう言って部屋の中央にある歪みへと踏み出し、歪みに飲み込まれるようにして消えて行った。




