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埋められかけた。

注意


獣人じゃない


ばか


ユルフワだけど、シリアスにはなる


筆者の鬱が募った反動で不定期に執筆されます


何があってもファンタジーでフィクション


ジャンルはファンタジーに自信がないから




昨日の朝のこと。


目を開けたら、異世界にいた。


朝とだとか言っても、まだクリーム色の空が暗くなったのを一度も見てないから微妙な話だが。


いや、なんかもうよくわからないけれど……目玉が実る紫色の樹木が眼前にあったらそう判断するしかないんじゃないかな。


むしろ、これが地球なら絶望だから。


混乱は真っ黒で目のないリスらしい小動物を見たらスパッと消えてしまった。何でかはわからない。


ここに来てから、何故か地球にいたときのことが殆ど思い出せない。好きな歌とかご飯とかは覚えてるのに、人間関係とかはさっぱりで、郷愁みたいな感情が湧いてこない。こんな場所で錯乱してもいいことはないので、一応は有難いけれど、余計に先の見通しが立たない気がした。


この極彩色と深緑の入り乱れる森には普通の動物と黒い影みたいな生き物の二種がいる。


普通のは黒いのから逃げてるらしいことと、隠れていれば普通のも黒いのも私に興味がないことがわかった。興味を引くような行動をすればどうなるかは不明だけど、とりあえず安全面の問題は少ない。


しかし、食べれる植物も飲み水もわからないのにどうすればいいのか全く見当もつかない。


寝間着一枚で来ちゃったから、手持ちの水分はない。


ここは比較的涼しいから喉が乾いていて時間の問題とは言え、まだ脱水症状は起きてない。と思う。


なんとか口にできるビジュアルの果物を見つけた後、しばらく木のウロに入ってじっとしている。食べ物を食べなきゃ死ぬけど、食べたら即死かもしれないのだ。確率は低くても人が通るのを待ちたい。


だいたい、その為に二足歩行の足跡が多く、小道が出来ている木の前に陣取ったのだから。


ふとした時に、酷い空腹と疲労が混じりあってどうしていいかわからなくなる。最初に黒リスに会ってなかったら不安で取り乱していたかもしれない。


そう思いつつ、いつの間にかうつらうつらと船をこいでいると、生木が裂ける音がした。


バキバキという音はあまりにも突然で、急いで顔を上げて見れば目の前に夜空をそのまま切り取ったようなドラゴンが降り立っていた。


巨体が木を割りさき、鋭い切っ先が身体に触れるのにも頓着せずに悠々と降りてくる影。


真っ黒な身体に銀砂を撒いたような光輝く極小の斑点が浮かび、僅かに開けた嘴から覗く銀の牙は雲に半分隠れた三日月のようだ。


目も耳も鼻もないドラゴンはたった一つある嘴をぱっかり開けて、笑った(・・・)


降り立った場所の地面に何かが埋まっているのか、鉤爪のある羽と一体化した腕で力強く掘っていく。


発泡スチロールの粒が舞い上がるみたいに、重さなどないのではないかと錯覚するほど軽く掘り返される地面。


息さえ忘れてドラゴンの様子を見ていると、大きな土塊が質量を伴った鈍い音を立ててこちらに飛んできた。


「っひ……!」


咄嗟に身を倒して難を逃れるものの、声が漏れた挙げ句に大きな音を立ててしまった。


パラパラと降りかかる土が止まる。


嫌な予感がして上を仰ぎ見てみれば、動くのを止めたドラゴンが星の浮かぶ目のない顔をこちらに向けていた。


見つかった、と思った瞬間、恐怖が襲ってきた。


「ぁっああ、ああ、あああああ……!!!」


我知らず口から悲鳴がこぼれ落ちる。


土砂で塞き止められた川の水が決壊したみたいに、悲鳴も恐怖も抑えることができない。


だってだってこんなのむりだしんでしまう。


こんなおおきさのいきものにかてるわけがないとべるいきものからにげれるわけがない。


極彩色であってもどこか色が抜けてた世界が、恐怖で鮮明に浮かび上がる。


異様な世界に来てから掛かっていたバイアスが解けて、思考が正常になったと言った方がいいかも知れない。


混乱も恐怖も感じなかった今までがおかしかったのだとは思う。


だけど、せめて後少し、恐怖なんて忘れたままでいたかった。


なんかいるかも、くらいの気軽さでドラゴンが手を伸ばせば避けた場所が隕石でも落ちたみたいに抉れる。


切り裂くというよりは、槌のように全てを叩き潰してしまいそうな長くて太い腕。起き上がって走っても逃げるのが間に合うなんて夢を見る余裕はない。


生きなきゃ死ぬ逃げなきゃ無理だ。


走馬灯みたいな過去は流れなかったけど一秒が恐ろしく引き伸ばされて、生への欲求と死の予感が混じりあう。


この段階に至って私に出来ることが声を上げる以外にあろうか。


這いつくばったまま振り上げられた銀の散る黒い翼腕を眺める。


天を衝く極彩色の木々を背景に広がる皮膜は夜空のよう。


まだ一度も見ていないこの世界の夜はこのドラゴンのように美しいのだろうか。


目を閉じることも出来ずに見上げていると、ふと視界から黒が消え失せた。


遅れて何かが叩きつけられる轟音が響く。


音につられて顔を横に向ければ、真紅の葉を付けていた大木が薙ぎ倒され、胸にぽっかりと大穴を開けたドラゴンが煙を上げて横たわっていた。


真っ赤に染まる葉が生い茂る枝に、ぐったりとして頭を預けたまま口を半開きにした黒のドラゴンは、まるで真っ赤な血を撒き散らしているようだ。


何があったのか理解出来ずに目を白黒させていると、致命傷となったであろう胸の風穴から男が出てきた。


ドラゴンは血液を持たないらしく、汚れた様子のない小麦色の髪をした男は一抱えもある銀色の塊をぽいっと外に放り投げる。


銀色塊は私の傍らに落ち、血の気を引かせた。


今さら運動した後のようにバクバクいい始めた心臓を押さえると、ドラゴンから銀の牙も回収してきたらしい男がまじまじと私を見下ろしていた。


自分のごくりと唾をのむ音がやけに大きい。


あの絶対的な死を振りかざしてきたドラゴンさえあっさりと殺した男相手に何ができようか。


人に会いたくてここに居たのだが、こんな恐ろしい化け物人間とエンカウントするなんて思ってなかった。というか、これがこの世界の基準だとしたら生きていけないんだけど。


男は栗のようなヘーゼルアイでじっと私とドラゴンの戦利品を見比べている。


何を考えているか全く読めず、恐る恐る顔を見てみればガッチリ目があった。


何か驚いた様子の男は怯える私を軽々と持ち上げ、全身をまさぐってきた。そこには色の欠片もなく、淡々と身体検査をするようなものだったので抵抗しないで身を任せる。


というか、抵抗して殺されたくないので何をされてもじっとしているとは思うが。


……抵抗はしないが、匂いを嗅ぐのはなんなの。耳はないけど獣人なのかね。


手足の先から始まって、それはもう隅々まで見られて嗅がれた。完全に色を含まないにしても、詳しく描写したらお月様にでも昇りそうなほど。


それでも死ぬよりはマシだし、痛くないから我慢した。ただ、昔からどういうことなのか顎の下だけは弱くて、最後の最後でそこに手がのびて来たときは声を抑えきれなかった。


ひう、だか、ひゃう、だか……とにかく情けない声が出たのだけれど、その声を聞いた男は目を輝かせて私を俵担ぎした。


どうやら、巣に持ち帰ることが決定したらしい。


男はそのまま立ち去ろうとしたが、ドラゴンから取れた素材のことを思い出したらしく私を放り出して両手を使って穴を掘り出した。


……こいつ、犬か!!!


木葉のように軽い扱いで投げ捨てられ、下手な受け身を取ったせいで痛みを訴える手のひらからは血がにじんでいた。


恨みがましい目で男を見やれば、せっせと銀色の塊と牙を穴に埋めて土を被せていた。恐らく、私を抱えればもう銀色シリーズは持てないと判断して、残りを他の生き物に取られないように隠すつもりなんだ。そうだよ、これ絶対そうだって。


犬だ。


この男、犬だ。


小麦色の癖毛といい、栗色の円らな瞳といい、まるでゴールデンレトリバーじゃないか。


だから、興味あるものを見つけて私を放り投げたのは仕方ないに違いない。匂いを嗅いだのも習性なんだな、オーケーわかっているよジョン。


というか、さっき悩んでいたのは持ち帰る順番なのか?今回持って帰るのがドラゴンのだったら埋められるのは私だったのか?……あんなに深い所に埋められたら死ぬんだけど……危な。


私はあまりの驚きと呆れに、少し前にドラゴンに命を奪われたことなんてすっかり忘れて犬男のジョン(仮)を見ていた。


どうやら私はジョンの巣に持ち帰られることになりそうなんだが、命の安全と欲を言えば文明的な生活は望めるんだろうか。


手を泥だらけにして、戦利品をすっかり埋めてご満悦というようにニコニコするジョンに再び抱えられながら思わず天を仰ぐ。


何本もの木が倒れて見通しの良くなった森から見える空の色が、クリーム色から鮮やかなオレンジ色に移り行くのが悪い暗示でないことを祈ろう。





異世界に来て二日目。

埋められかけた。

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