Fade story
「はぁ、はぁ……」
心臓がドクドクと脈を打っているのが分かる。僕の息は荒くなっていた。かれこれ十分ほど停止したままだ。普段ならこのくらいの事は何ともないのだが、自分の背にのしかかっているもので今にも倒れそうになる程疲弊していた。しかし、僕はその場から動く事が出来ないでいた。どうしてこうなったかというと、話は少し遡る。
――そもそもは、臨海学校で宿泊している旅館の近くに古い墓地で男女ペアでの肝試しをしよう、なんて事を誰かが言ったことが始まりだった。男子が必死になって女子達を説得し、男女ペアで墓地の周りを一周する肝試し大会が行われる事になった。僕は少し怖がりなのであまり乗り気ではなかったけど、男子たちの熱が籠った視線に断る事が出来ずに、しぶしぶ参加することになってしまった。
しかも、半分ぐらい過ぎたころで、ペアの女子の姿も見えなくなってしまい、膝を震わせながら歩いていたら、お墓の影から何かが僕にのしかかってきたのだ。ひんやりとした温度と触覚に、僕は背筋が凍った。どうやら僕の背が急に鉛の様に重くなったのだ。重さはそんなに重くはない。おおよそ7、8才の子供だろう。僕は足がすくんで動けず、振り返ることも出来ずにその場に硬直し続けた。
「あ……」
そんな時、誰かの声が聞こえた気がした。まさか、背中にいるのは幽霊だったりするのだろうか。あまりの怖さに僕は飛び上がってしまい、背中の何かを振り落としてしまった。しかし、誰の姿も見えない。僕は恐る恐る振り返った。
――そこにいたのは、小さな女の子だった。着ている浴衣は泥で汚れていて、所々破れていて、顔や腕が少し黒ずんできている。ずっとこの場所にいたんだろうか……などと考えていると、僕の方に駆け寄ってくる女の子が見えた。顔と名前は一致しないけど、おそらくは僕のペアになった子だろう。
「ちょっと君、まだこんな所にいたの! こっちだって怖いんだから急にいなくならいでよね……?」
どうやら彼女は、はぐれた僕を探しに来てくれたようだ。ようやく一人から解放された、安堵の嘆息しようとした刹那――
「待っ……て……」
「「えっ!」」
背後から聞こえる掠れた声に、僕は振り向いてしまった。
「いらっしゃい、ませ……ようこそ。ゆっくり……」
先ほどの女の子が、迫ってきた。歩くたびに体銃の皮膚や肉がボロボロと崩れていく。それでも僕達の方にゆっくりと歩を進めてきている。止まる気配は感じ取れなかった。
僕と彼女は絶叫しながら旅館まで戻り、(幸い向こうの足は遅かった)先生達に助けを求めた。しかし、先生達はそんな物は見なかったという。
旅館の女将さんに聞いた話では、7歳で亡くなった一人娘がいて、その娘はいつも旅館の仕事を手伝ってくれていたらしく、ある日川で遊んでいた時、足を滑らせて溺れて死んでしまった、という話でした。
――それから数年経った今でも、その墓場では女の子が現れ、宿泊客に接客をしているとか、していないとか。
終