第001話 めんどくさい話
活動報告に書いていたものですが一部修正しつつ正式にあげることらしました。
作者の書いている『One in the WORLD』の派生作品で同じ主人公をゲームのスペックで異世界に放り込んだらどうなるかという疑問から発生した作品です。
不定期更新のため亀更新になりますがご了承ください。
なお活動報告のほうに書かれたものを一部書き直したりするので少し内容が変わるかもしれません。
“村が見えるな…”
山の斜面に突き出ている岩の上からふもとを携帯用の双眼鏡で観察していた16歳前後の少女がぽつりとつぶやく。
グリーン系迷彩の迷彩服に迷彩ズボン、迷彩ボディアーマー。
およそ少女らしくない格好だが金髪で目鼻は整ってかなりの美少女。
将来の期待大といったところである。
腰には右腰に拳銃らしきものがひとつに右足首にもコンバットナイフらしいものが装備されている。
さらに背には迷彩柄リュックまで。
山にサバイバルゲームでもしにきた子供なのだろうか?
“とりあえず人里に出ないとな…”
そう呟くと彼女は山の斜面を滑り降りながら岩の上から見えた村めがけて最短コースで動き出した。
“本当に面倒な依頼持ってきやがって新藤のやつ…”
彼女の名前は『ラン』。
こことは違う場所に本来なら生活している人間である。
しかも本当なら40過ぎの日本人のおっさんである。
ただ彼女いや彼は向こうの世界の日本で数少ない『戦争経験者』であった。
もっともそのおかげでこんなややこしい依頼をされる羽目になったのだが…。
◇
JR大阪駅を降り改札口を出て最近再開発された元貨物ターミナルの場所に出来たビルに向かう。
金曜日にVRゲームの開発会社であるソリッド社の社長をしている悪友が「日曜日の1時から話がしたいので会社に来てくれ」なんてほざいたからやってきたのだが。
なんというか『5分前の精神』が刻み込まれているせいか悪態つきながらも余裕を持って30分前についてしまった。
海自・米海兵隊と続けてついた職業のせいでもはや本能に近いレベルで刷り込まれているため既にな修正不可能である。
遅刻するよりましではあるがこの修正どうにかならないものかと思う。
まぁ、直す必要も無いのだが…。
本社ビル前で念のため新藤にスマホで連絡を入れる。
まぁ、早いがいいだろう。
“新藤ビル前に着いたぞ~♪”
「早いな、おい…今から迎えの人に行って貰うからついてきてくれ。」
“うい、入り口で待ってる。”
とりあえず不審者じゃないのだから入るための手続き位しておかないとな…
そう思いつつ受付のお嬢さんに声をかけようとしたら後ろから声をかけられた。
「工藤さんでしょうか?」
後ろを振り向くと…なぜか陸上自衛隊の制服を着込んだ幹部が2名立っていた。
なんで陸自がこんなところに?
不思議に思いながらも頷くと「ついてきてください」というのでついていくことに。
エレベーターに乗り20階まで連れて行かれそのまま『第一大会議室』と書かれている部屋に連れて行かれた。
会議室に入るとテーブルがコの字の形に置かれており正面には新藤と…
正直固まってしまった。
新藤の左側の列には名前こそは覚えていないがテレビなどで○○グループ会長だの経済界の重鎮などと紹介されている人達が座っていた。
そして右側には…ひと目見て気がついた現海上幕僚長・井伊幕僚長。
ということは隣の陸自陸将は陸上幕僚長・本間陸将幕僚長でその隣の空自の空将は航空幕僚長の飯塚幕僚長か?
というか、その隣は防衛大臣と総理大臣じゃないか…
“俺、なんか重要な規律違反犯したっけ?”
思わず呟いててしまった俺は可笑しくないと思う。
「いや、そうではない。
工藤君に依頼があってきてもらったのだ。
その為にも海自に現役復帰してもらいたい。」
“へ?『海士長』にですか?”
思わず40にもなって下から三番目の階級になりたくないわなんて思っていた。
俺は高校卒業した後に海自に入隊して5年満期で除隊している。
最終階級は『海士長』だ。
ペーペーの下っ端兵隊である。
もっともそののちアメリカに渡り海兵隊に入隊して下士官・一等軍曹まで勤めている。
しかもしっかり向こうで大学にも入っているので『大卒』ではある。
「いや海兵隊で軍曹を務めてたものに士長に戻れととかは言わんよ。
三等海佐になってもらう。」
“………”
思わず口がポカンと開いたまま塞がらなかった。
だってそうだろうアメリカで下士官教育は受けたとはいえ士官の教育はまったく受けていない。
それでも尉官クラスならまだ特務ということで考えられるが佐官クラスなんてありえんだろう。
自衛隊に戻る気は正直無いがあまりの待遇のよさに思いっきり警戒心が沸き起こる。
なにより、あの『新藤』が絡んでいるのだ。
まともであるはずが無い。
“新藤…おまえ何を企んでる?”
思わずにらみつけながら新藤に聞くと大慌てで説明を始める。
ことの発端は世界初のVRによるMMOの『One in the WORLD Onlin』のクローズβ中に起きた出来事だ。
明らかにゲームの世界と違う場所に出たテストプレイヤーが出た。
野があり山があり村もある。
しかし間違いなく『One in the WORLD Onlin』の作られた世界ではなかった。
会社としては最初は驚きあわて、そして狂喜した。
電脳を通してとはいえ人類史上初めての『異世界』とのコンタクトになるのだから。
難しいことはさておき草花や動物の遺伝子情報、もっと具体的にいえばサンプルが取れれば莫大な利益が転がり込んでくる。
これらは医学や薬学界に画期的な発展をもたらす可能性があるからだ。
しかもそれを独占できたら莫大な利益になる。
しかしこの直後さらに驚くべきことがおきた。
『異世界の神』と名乗る者からアクセスがあったのだ。
彼(ザーファ神)によるとこの世界(アクリス界)は長年発展がなく世界が徐々に衰退しだしていたらしい。
もってあと200年前後。
人としては200年は長いかもしれないが神や世界からしたら瞬きの間の出来事だそうだ。
これはなんとかせねばと思い周辺の世界から活力になる者を召還 (わが世界ではそれを拉致というのだが…) しようと思っていたら擬似世界 (One in the WORLD Onlinの世界) をつくり活気付かせようとした者達がいるのを発見。
これはこの者達に手伝わせようということでコンタクトしてきた。
というのが大まかな流れらしい。
このことを聞いた政府は民間人には荷が重過ぎると判断、ソリッド社の反対を押し切り (ソリッド社は自社の社員を送り込もうとしていた) 最初は自衛官を送り込んだらしい。
なにしろ国としても見過ごせない話だ。
そしたらさすがは平和ボケの国の人間だ、生き物の生き死にを目の前でされるのはさすがに堪えるらしい。
ほとんどのものがすぐに根を上げたそうだ。
また向こうの神は別段『勇者』を送って欲しいのではなく『世界を活気つかせる者』がほしいので技術者を送り込もうかと思ったらあまりの技術レベルの差に向こうでは何も出来なかったらしい。
ちなみに向こうの世界は15世紀前後のヨーロッパぐらいの技術力だそうで。
まぁ、そういうことしていたためクローズβが半年者間行われることになった理由らしい。
しかもそれならゲームの仕様を向こうに近づけてそれに耐えられる人物探そうと思ってゲームを開始したら都合よく『元自衛官』・『元海兵隊』・『実戦経験者』という3拍子そろった挙句ゲーム大好き人間であるつまり俺が参加してきたと。
これは幸いとばかりテスターに仕立て上げ少し監視してたらそらもうのびのびとゲーム世界に適応した挙句生産者としてトップクラスまでやらかす始末と。
こりゃ都合のいいカモが見つかったということでソリッド社・政府・自衛隊・各種医療メーカー総出でバックアップ体制作るから行って来いというわけで俺をここに呼び寄せたと。
“俺、普通に店持ってるから長期の休みは困るんだが…”
「いやいや、そこは保障するから (政府関係者)」
“こんな年取ったおっさんより若い方がいいだろうに”
「そこは基本ゲームと同じデータの体を向こうに送り込みますから大丈夫です (ソリッド社社員)」
“身分の保証は?”
「そのために現役復帰してもらいたい (自衛隊関係者)」
“ゲームの世界にもAIの店員が3名もいるのだが…”
「(心配事は)そっちかい!!! (医療メーカー)」
「そっちはダミーの『ラン』君を送って対処しておくよ (新藤)」
ふむ…どうも逃げ道は無いようで…
“期間は?”
「最低2年間、ただし好きなときに帰還できるようにしておく。
また向こうで手に入れた物質に関しても向こうの神が手配してくれた設計図を元に『データー復元機』がすでに出来ていてテスト済みだ。 (新藤)」
「あなた自身の肉体もこちらの医療チームが責任もって面倒を見ておく (医療メーカー)」
こうして逃げ道をふさがれた俺は政府と正式に契約を結ぶことなり向こうの世界にいくことになった。
とりあえず報酬以外にも給料も出るので身分的に海上自衛官になることを了承した。
まさか海自の幹部の制服に腕を通す日が来るとは思わなかった。
装備はある程度無理がきくらしいが基本陸自の装備で行くことになった。
剣と魔法のファンタジー世界で銃はいかがなものかと思うが慣れ親しんだ現実の武器としては正しい選択だと思いたい。
ゲームの世界では魔獣やちと強い動物にも拳銃や小銃はほとんど効果なかったのだが。
ただそこはファンタジー装備にデーターを変更してあるからと新藤に肩をたたかれてしまった。
ふ、不安だ…。
そのあと2週間かけて別の電脳空間で武器や各種装備のテストをしたあとソリッド社にある全身カプセルの中からアクリス界に向けて旅立つこととなった。
すったもんだしたあげくまたもや女性の状態にされたが…。
ただ今回は小学生はさすがに勘弁してもらって高校生ぐらいの年齢で送ってもらった。
10歳前後じゃ誰も認めてくれないという俺の言葉が決めてだった。
とりあえずの導入編です。