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灰色の魔女

作者: 三原煉



この世界には2人の魔女がいた

1人は白い魔女と呼ばれた

もう1人は黒い魔女と呼ばれた


2人の魔女はとても仲が良かった

それを象徴するように世界は平和であった


しかし

とある国の王が白い魔女を妃にと攫ってしまった

黒い魔女は白い魔女を探す旅に出た

それだけ黒い魔女にとって白い魔女は大切な存在だった


旅の途中

黒い魔女は1人の青年と会った

青年は黒い魔女に優しかった

青年は黒い魔女の旅についていった


黒い魔女は青年に尋ねた

「なぜ私に構うのだ」


青年は答えた

「それはあなたの事が好きだから」


黒い魔女は青年に言った

「私は『恋』と言う感情を知らない

 だから、君の感情に答えられない」


青年は言った

「それでも、僕は貴女の傍にいたい」


黒い魔女は青年と共に旅をした

黒い魔女は青年と共に旅をしていく内に幾つもの感情を顔に出した

共に笑い

共に悲しみ

共に怒り

共に困惑した



黒い魔女はとうとう白い魔女を攫った王を見つけた

しかし

王の隣にいるはずの白い魔女はいなかった

王の腕には赤ん坊が抱かれていた

赤ん坊は黒い魔女と同じ黒い髪をしていた


王は言った

「彼女はこの赤ん坊を産んで死んだ

 この子はお前の子だ」


黒い魔女は言った

「彼女が私を残して死ぬわけがない

 それにその子は貴様の子だろう」


王は言った

「この子は私が彼女を連れ去る時にはもう彼女の腹にいた

 お前は自分の事を忘れたのか」


黒い魔女は言った

「自分の事、だと?」


王は言った

「お前は本当は男だと言う事を」


黒い魔女は言った

「私が、男、だと……?

 う、そ、だ、

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 お前はそうやって私を欺こうとするのか!」


王は言った

「私はお前を欺こうとしていない

 本当の事を言っている

 黒き魔女、否、黒き魔法使い

 お前は自分の妹を愛し

 愛しすぎたが為に自分に呪いをかけた哀れな男」


黒い魔女は言った

「違う!

 私は女だ!!

 わ、た、し、は……」


王は言った

「この世界で『黒』を持っているのはお前だけ

 この子はお前の『黒』を受け継いでいる

 ……お前が愛した『白』はこの世界にはいない

 もう彼女を解放してあげろ」


黒い魔女は言った

「彼女?

 それは『白い魔女』の事か?」


「違う」


ドンと黒い魔女の背中に何かが当たった

何かが当たった場所から痛みが広がっていく

黒い魔女がゆっくりを自分の後ろにいる者を見た

そこにいたのは一緒に旅してきた青年であった


黒い魔女は言った

「な、ぜ、……」


青年は言った

「僕は貴女を愛しています

 だけど、僕が愛しているのは『黒い魔女』ではなく

 『黒い魔法使い』に攫われた僕の幼馴染である神子だけ

 貴女に会った時にすぐ分かりました

 だから、一緒に旅をした

 僕の知っている幼馴染が生きていると信じて

 でも、彼女は生きてない事が分かりました

 ここにいるのは『黒い魔法使い』によって作られた『黒い魔女』だけですから」



私は愛されてはいなかった

私は愛してはいけなかった

あの人は遠い存在

あの子は私の妹

だから逃げた

逃げたけど愛する事をやめられなかった

でも私は後悔していない

だから彼女に手を出してしまった

私は愛していたから

私は愛していたから



『あ、は、あはははははははははははははは!!!!!』

黒い魔女は狂った

黒い魔法使いと共に


『私達は愛してはいけなかった

 愛されてもいけなかった

 私達の体は世界のもの

 だけどね

 王よ

 青年よ

 私達は人なんだよ

 世界はなぜ私達を人として生んだんだ

 人でなければ

 愛等知らずに生涯を終えたのに

 世界よ

 私達はお前に呪いをくれてやろう

 お前が人にやらなかった『魔』の力を私達が人にやろう

 人が『魔』の力に溺れ

 世界に『魔』が広がった時

 世界は終わりを告げる呪いをくれてやろう』


黒い魔女と黒い魔法使いがそう言い終えると泣き声が聞こえてきた

王に抱かれていた赤ん坊が急に泣き出したのだ


『煩い子だ』


黒い魔女は赤ん坊に魔法を放った

しかし

赤ん坊は無傷だった

黒い魔女が放った魔法を赤ん坊は取り込んだ

赤ん坊は泣きやむことはない


『ああああああああああ、煩い煩い煩いうるさいうるさいウルサイ

 私達の邪魔をするな!』


黒い魔女が次々と魔法を繰り出した

繰り出された魔法は全て赤ん坊が取り込んでいった

魔法を取り込む度に赤ん坊は成長した

黒い魔女が攻撃の手を休めた時には赤ん坊は少女の姿になっていた

少女の髪は赤ん坊の時のような黒ではなく灰色となっていた


『化け物が……』

「その化け物の父親は貴方ですよ

 今の彼方に対して父親と言えるのは半分でしょうが」


少女は普通に話をする

姿形にしては少し大人びている口調である


「あぁ、食事を下さった事には礼を言います」

『食事……?』

「魔力を取り込むと、満腹感を得られました

 私の場合、それが食事にあたるようです

 両親が普通ではないからでしょうか

 私も普通ではないようです」

『あの子を愚弄するのか……!』

「私はそんな事を言っていません

 むしろ、称えていますよ

 あぁ、でも、今の貴方にとってはどんな言葉でも同じ様に聞こえるでしょうね

 世界は貴方に罰を与えるようですから」

『罰、だと……?』

「なぜ世界が貴方と母に愛してはいけないと言ったか知らないのですか?

 私が生まれるからですよ

 全ての『魔』を奪い尽くす私の存在は世界の存在を否定するものですから

 知っていました?

 この世界に生きる全ての者が『魔』を持っていることを

 貴方の様に『魔』の力が多い者はいませんから

 だから、『魔』を使う事が出来るのは貴方と母だけだったのですよ」

『なぜ、お前はその様なことを知っている』

「教えていただいたのですよ、世界に

 この様な事を知っているのは世界だけですから

 もう時間のようですね」

サラサラと砂がこぼれる音がする

その音は黒い魔女からしていた

黒い魔女は自分の身体を見た

その身体は砂の様に小さな粒になりつつあった

『なんだ、これは』

「貴方の『魔』は全て私が食べてしまいましたので

 貴方の体はこの世界に存在できなくなったのですよ

 今、貴方の身体は世界に吸収されている途中なのです」

『な、ん、だ、と……私はまだ!』

「まだ?

 貴方は死にたいと思っていたではありませんか

 貴方の強大な『魔』は貴方に永遠の命を与えていました

 それに母がいなくなったこの世界に貴方の居場所などないのですよ

 相反する相手がいない貴方の力は世界の脅威でしかありませんから

 ただ、貴方の魂は幾つもの世界を廻り、その罪を償うことになります

 再びこの世界に戻ってくる頃には貴方の知る世界はないでしょう」

少女がそう言い終えた時

黒い魔女の身体は砂と化していた



少女は言う

「父が迷惑をかけました」

頭を下げた少女に王は語る

「私は何もしていない」

「母を保護していただきました

 おかげで私は生まれて来る事が出来ました」

少女は青年を見る

「貴方の想い人は黒い魔法使いと同化していた為

 一緒に他の世界を廻る事となりました

 私の力が及ばずこのような事になり

 申し訳ありません」

「……黒い魔法使いに攫われた時から覚悟はしていました」

「それでも、貴方の心は希望を持っていました

 それを潰してしまう結果となってしまいました」

「……もうこの話は終わりにしましょう

 過去を変えることはできないのですから」

「……そうですね

 では、私からひとつだけこれだけは言わせていただきます

 貴方の想い人は貴方の事を想っていました

 しかし、それが神に背く事だと思い悩んでいました

 それが黒い魔法使いの心と同調し、このような事になりました

 貴方と旅をしているとき

 黒い魔女は貴方の想い人になっていたことを忘れないで下さい」

「あぁ……」


王が少女に問いかける

「君はこれからどうするんだい?」

「黒い魔女の呪いを解く旅に出ます

 それが出来るのが私だけですから」


青年は言う

「では、僕は君と共に旅をする

 彼女がああなってしまったのには僕にも責任がある

 僕はその罪を君の供をすることで償いたい」


少女は言う

「貴方は普通の人間

 私は化け物ですよ」


青年は言う

「君は化け物じゃない

 灰色の魔女だ」

「灰色の魔女?」

「君は白い魔女でも黒い魔女でもない

 だけど、白い魔女の力も黒い魔女の力も持っている

 白と黒は混ざり合うと、灰色になる

 君の髪の様に

 だから、君は化け物じゃない

 『灰色の魔女』だよ」

「……ありがとう」

少女のその言葉は誰の耳にも聞こえなかった

だが、少女の心情を表すように優しい微風が少女の髪を揺らした


王は言う

「では、私はその旅を快適になるよう、手助けしよう

 灰色の魔女は我々の味方であり

 救いの手を差し伸べる者と国内外に伝えよう」

「お気遣い有難う御座います」

少女はそう言うと青年を連れ立って、旅に出た




それから数年後、ある地で少女は言葉を残した

「この世界から全ての呪いがなくなり

 私につけられた永遠の枷が外れ

 自由の身となるまで

 私はこの世界と共に生きます

 例え、人々に嫌われようと

 人々に虐げられようと

 私はこの世界の人々を愛しましょう」



その言の葉は『灰色の魔女』の最初にして最後の魔法の言葉であった






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― 新着の感想 ―
[良い点] 捻れて絡まっていくような展開を上手く描けていたと思います。 [気になる点] そういうスタイルでしたら申し訳御座いませんが、隠しておく、という部分や、想像に任せるこいう部分を意識しましても、…
2013/05/18 13:41 退会済み
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