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 5-4


 どうにも都合の悪い日というのはあるもので、そんな日は何をどう善処しようと心がけても、けちが付いて回る。

 そんなことを考えて、最初にけちがついたのはどこかと考えかけて、一つ溜息をつく。

 会長に帰れと言われて生徒会室を後にしてから、そのまますぐに帰宅することはなく、すぐに携帯電話でメールを出した。

 いつもよりも早く生徒会の用事が済んだことにより、下校が早まったことを、図書室で待っているはずの小羽に知らせようと思ったのだが、返信は無かった。

 いつもならメールの返信はすぐにやってくるのだが、今日はいつもと時間が違うせいか、気づいていないのかもしれない。

 仕方が無いので、図書室まで迎えに行ってみたのだが……小羽の姿はどこにも無い。

 行き違いにでもなっただろうか。メールに気づいて、先に行動した後だったのだろうか。

 だとしたら、生徒会室に戻るべきか。いや、そこでまた行き違いになる可能性もなくは無い。

 それに小羽なら、わざわざ生徒会室まで足を運ぶとは考えにくい。なら、素直に合流地点である生徒用玄関前に居る可能性のほうが高い。

 図書館から回れ右をして靴箱のほうへと足を向け、万一のことを考えて、一応、もう一度小羽にその旨をメールで伝えておく。

 人もまばらな靴箱の周辺に人影は無く、靴を履き替えて生徒用玄関前を見回してみるも、下校する生徒及び待ち合わせているような人影の一つも見当たらなかった。

 メールの返信も無い。

 さすがに心配になってきたが、まさか今日に限って携帯を所持していないという痛恨の事態ではあるまいか。

 小羽ならありうるが、それならば、最初から図書室に居なかったという結論に至る。

 まさか、今日は俺を待たずに先に帰ったということだろうか。

 それを考えると、なぜか肩透かしを食らったような脱力感よりも、寂しさのほうが勝ってしまう。

 どうやら自分が思っていた以上に、小羽と一緒に下校する事を、重要にしていたらしい。

 おかしなことだろうか。昔から、小羽とは一緒だった気がするが、高校に入ってから一緒に下校する頻度は下がった。

 ここ最近の、ほんの少しだけの時間の共有。それは、本当にわずかな時間だったが、俺にとっては想像以上に重要なものになっていたのだ。

 日課としているロードワークやストレッチ、筋トレ……それらと比べることではないのかもしれないが、少なくともそれら日課と化しているものを一日でも欠いたならば、もどかしさを覚えることだろう。

 少なくともそれくらいには、喪失感を覚えている。

 返信がないままの携帯を取り出して、もう一度だけメールを送る。

 先に帰る。それを文字にしてから、ひどく自分の心がささくれ立っていることに気づいた。

 まるで、すねた子供だな。

 校門を越えて歩き出すと、ふと考える。

 今下校しても、塾には少し早い。一度家に戻ったほうがいいだろうか。

 少しだけ考えて、一度帰宅することを選ぶ。今日は少し、ゆっくりしたい気分だった。

 今日は、朝から色々ありすぎたと思う。

 何より驚いたのは、厳島が俺のことを好きだといったこと。

 さすがにあれは冗談だと思った。いつも冗談を言うような性格だし、冗談のようなタイミングだった。

 だが、冗談を言うような状況としては不自然だったし、あの真剣な目は見た事がなかった。

 あんなふうに他人の気持ちをぶつけられたことは、今までに無かった。

 自分にはつくづく、その辺りの免疫というものが無いのだろう。

 どう答えたものか、さっぱり思いつかなかった。

 まさか、俺のような面白みの無い人間を、厳島のような派手好きな女子が好意を持つとは思えなかった。

 どう答えるのが正解だったのか、それはわからないが……どう答えても、厳島はそれを予想していたのだろう。

 彼女にとっては、こういった痴話事など、日常茶飯事なのだろうし、そんな立場からすれば、俺の考え方など透けて見えるほど単純なのかもしれない。

 だから厳島は、敢えて自分の身を切ったのだろうか。

『言わなきゃわかんない事ってのも、あるんだよ』

 去り際に言ったことは、まるで何かを急かしているかのようにも聞こえた。

 何に対して言った事なのか……思うにそれは、彼女が俺に対しての想いを告げたことのようにも思える。

 だがそれはあくまで、厳島が提示した一例に過ぎないのではないのだろうか。

 彼女が本当に言いたかったこと。伝えたかったことは、もっと別にあったのではないか。

 そう思えてならない。

 だとするなら、厳島が俺にやらせたがっているのは……つまり……

 車の通らない信号で立ち止まると、ふたたび携帯を取り出す。

 やはり、返信は無い。

 これは、本格的に携帯を忘れているのかもしれない。

 小羽のことを考えて、胸の奥がおもりをつけられたかのように鈍い痛みを覚える。

 これは使命感だろうか。誰から貰った使命感か。ああ、きっと、厳島からと……それから、おそらく、俺自身か。

 溜息が洩れる。最初にけちがついたのはいつだったか。




 5:末


今回は短いです。配分を間違えた気がします。

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